社会人が小学校の先生を目指すにあたり知っておきたい基礎知識
社会人になって改めて、小学…
『十二月あそひ』(佛教大学附属図書館所蔵)
突然ですが、京都の五山の送り火は、なぜ”5つ”あるのでしょうか。
何か疑問を感じた時、私たちはついインターネットや書籍の中に手軽に答えを見出そうとします。
しかし、そこに書いてあることは本当に真実といえるのでしょうか。
あるいは、どのようなプロセスを経て辿り着いた結論なのでしょうか。
大学での歴史学の学びは、疑問や興味を持った内容に対して自分なりの仮説をもち、文献やフィールドワーク等を通して情報を集め、歴史の解釈を整理することです。
歴史上の特定の事象(事件や事柄など)を明らかにすることはもちろん、当時の社会状況や民俗、人物などの多様な視点から、他の事象との関連性も含めて考察します。
・・・何だか難しそう、と思われたかもしれません。
ですが、大学で古い文献を読み解く知識や技能を身に付け、思考の方法を基礎から学ぶことで、着実にできるようになります。
また、学びの道すがら、思わぬ史実や共に学ぶ仲間、新しい自分との出会いも待っています。
人生経験を積んだ今だからこそ、社会人生活で求められてきたタイパやコスパに縛られず、好きなことに惜しみなく没頭する楽しさを味わえるでしょう。
次の章では、歴史への学術的なアプローチをご紹介します。
例えば、五山の送り火について知るための方法にはどのようなものがあるでしょうか。
・史料や文献を読む
・フィールドワークを行う
よし!早速調べよう!と動き出すその前に、忘れてはいけない大事なプロセスがあります。それは、疑問に対して自分なりの「仮説を立てる」ことです。
なぜ仮説を立てる必要があるのでしょうか。
それは、仮説を立ててそれを検証する、というゴール設定がないと、今ある知識だけではなく、新たな知識を獲得しようと考えた時、得たい知識、つまり資史料や現地調査の範囲が限定できず、結果としてやみくもな調査に終わってしまうからです。
そのため、まずは基本的な知識をもう一度確認・整理したうえで仮説を立てます。
例えば、既に読んだ本で、室町時代に足利義政が夭逝した息子を弔うために新盆に用いた送り火が「大」の字だった、という知識を得ていたとします。そこから、「五山の送り火は、足利義政が定めた「大」の字をきっかけに、後世の権力者たちが各々供養の一文字を定めていったのでは」と仮説が立てられます。あるいは、5という数字に着目し、「五山のそれぞれの送り火は「陰陽五行説」の五行を象徴しているのでは?」という仮説も立てられるかもしれません。
これらの仮説を検証するにはさらに何を調べる必要があるかを考えたうえで、情報収集に入ります。
それでは改めて、情報収集の方法をご紹介します。
昔の史料から当時の様子を探ったり、近年の研究者が著した書籍や論文から、史実がどれだけ明らかになっているか、それらがその著者によってどのように解釈されているかを調べます。
例えば、過去の様子を知るために昔の新聞記事を探すと、明治20年代には「い」「竿に鈴」など、五山以外にも送り火があったことがわかります。
さらに五山の送り火の起源を知るために中近世の史料まで遡る場合は、大学で学ぶ文献学の知識・技能が不可欠です。
『花洛細見圖』 (佛教大学附属図書館所蔵)
研究テーマによっては、現地調査も必要になってくるでしょう。
実際に関連する土地に足を運び、現地の様子を捉えます。
例えば、大文字山に赴いて現地の地理環境や火床を観察したり、周囲の祠を調べたりします。また、保存会の人々から伝承されてきた歴史を聞く機会があれば、貴重な情報を得ることもできます。
その他にも古地図や祭礼・芸能等の非文字資史料を読み解くことで、文献のみでは得られなかった情報を収集します。
情報を集めた後は、仮説が正しいかどうかを考えます。
把握した情報がそれぞれどのように結びつくか、何を意味しているのかを読み取りながら、仮説と検証を重ねて自分なりの歴史の解釈をまとめていきます。
今回の例でみると、送り火は過去に5つ以上あったとの示唆が得られ、足利義政や過去の権力者達が関わっていたという仮説の真偽まではわかりませんが、五行を象徴しているという仮説は誤りである可能性が高いことが分かりました。前者の仮説の検証には、もっと過去の文献を探るなど、さらなる情報収集が必要です。
検証の結果、たとえ仮説が誤りだったとしても、決して否定的に受け止める必要はありません。
仮説の検証に必要な思考と情報収集を重ね、場合によっては新たな仮説を立てながら、検証を進めていきます。
研究は、こうした小さな作業の積み重ね―仮説と仮説、仮説と事実の間の「往復的な思考」の積み重ねが重要です。
歴史学的な探究の過程では、思わぬ史実に出会うことで、驚きや喜び、時には落胆することもあるかもしれません。
自分にとって都合のいいことだけを見ることが研究ではありません。
これまでの自分の思考に固執するのではなく、常に新たな視点を取り入れていく姿勢も求められます。
このように歴史学のアプローチを身に付けることで、学術的な探究はもちろん、日常生活においても、学んだ内容をベースに図書館に行ったり、知る人ぞ知る観光地に足を向けたりと行動範囲が広がり、色々なものの見方が出来るようになった自分に出会えるでしょう。それもまた、歴史学の学びの楽しさの1つといえます。
歴史学のアプローチに興味をもっていただけましたか。
実際に、自分の解釈で歴史をひもときたいという方は、まずは自分が学ぶテーマを決めることをおすすめします。
歴史における学びは、人が関わることすべてが対象となります。書籍や身近な行事、先行研究などを参考にして、好きなことをテーマに選びましょう。
佛大通信の教員の研究記事も随時更新予定です。
具体的な「歴史学」の学びの手法としてお手本とするとともに、自身が興味をひかれるテーマを見つけるきっかけになさってください。
佛大通信は1953年から続く長い歴史のある京都の大学であり、京都の歴史に強いというのも特長です。京都は長く「都」が置かれた地、残されている史料も多く、町自体から歴史を感じながら学び直しができます。
また歴史学部には、文献史料から日本・東洋・西洋各史にアプローチする歴史学科、考古遺物・古地図・民俗行事など文献に残されなかった資料から歴史を探る歴史文化学科の2つの学科があります。
どちらも歴史を読み解くのに必要な歴史、地理、古文書学などの基礎的な知識が学べ、特に歴史文化学科では、実際に現地に赴き、風景や建造物も含めて総合的に考察するフィールドワークの技能を得られます。
オンラインスクーリングは、背景の異なる様々な年代・場所の学生と意見を交わせるのも佛大通信ならでは。これまであなたが培ってきた視点や意見も、他の方からすると、斬新な意見かもしれません。
また、卒業論文の執筆の際には、学生一人一人のテーマに対し、関連分野の研究事例やテーマに即した資料の探し方など、教員がきめ細かく指導します。歴史の第一線の研究者から個別指導を受けられるのは、歴史好きの方にとっては貴重な機会となるのではないでしょうか。
これらの機会を利用して、あなたも歴史探究の一歩を踏み出しませんか。
最後に、入学前のご質問で「いい年をして入学して良いんでしょうか」という声をいただくことがありますが、佛大通信での学びに年齢は関係ありません。ぜひ私たちに、あなたの「学びたい」を応援させてください。