通信教育クロストーク

2016年08月14日
近藤日出夫研究室(臨床心理学科)

「研究室訪問」
教育学部 臨床心理学科 教授 近藤 日出夫(こんどう ひでお)


学生時代にアルバイトで接した「少年非行」の現場が、いつしか一生涯のテーマに

 私が教職に至るまで仕事としていたのは、非行少年や犯罪者に向き合い、その心理を読み取り支援へと結びつける法務省の心理技官という仕事です。皆さんにはなじみのない職種だと思いますが、私がこうした道に入るきっかけは、岡山の大学で学んでいた時に児童相談所の一時保護所でのバイト経験です。そこで非行少年やネグレクトされた子どもたちの世話をしたことから、少年非行やその原因に興味を持ちました。また、その後の進路として、地方公務員の心理職を受験しようかと迷いましたが、犯罪性をもつ人に接する「怖いもの見たさ」もあり、転勤もいとわず、国家公務員上級職試験(現在の総合職試験)を受験。無事に合格して法務省に入り、心理職として全国の少年鑑別所、少年院、刑務所で多くの非行少年や犯罪者の話を聞いてきました。

 法務省では新任職員に対する研修体制が充実していて、2年間にわたりスーパーバイザーが付き、社会人としての常識から心理面接の仕方など、基礎的なスキルをじっくりと指導していただきました。心理検査や処遇技法など専門的な手法の習得はもちろんのこと、その成果をわかりやすく、コンパクトに報告書としてまとめ、裁判官など関連職種の人たちに理解していただくことも心理技官としての重要な役割でした。それと、犯罪者と接するという意味で、肉体的な「パワーが要る」仕事でもありました。護身術も必須科目です。

犯罪現場の経験を次世代に…その思いが論文に、さらには大学の指導者の道へ

 全国各地で心理技官の勤務を長く続けるうちに、管理職としての仕事が加わり多忙を極めるようになりましたが、矯正研修所の教官や法務総合研究所の研究官というポストへの異動があり、その機会を利用して現場で蓄えたものを論文として発表しました。また、その頃に少年による重大非行が相次ぎ、法務省が全国から集めた500ケース以上の殺人少年の資料を分析・調査する機会があり、以後、殺人少年やその被害者に関する研究を続けていくようになりました。

 一言で「殺人」と言っても、その過程に同じものは一つもありません。実際に加害少年に心情を聞いたことで、少年が人を殺すことは、体力面、物理的にも簡単なことではないと気づきます。少年の殺人は偶然の要素も重なり、全ての状況要因がマイナス方向に一致して進んだ時にだけ起きているのです。

 55歳を過ぎてからそうした研究成果をまとめたいという気持ちが強まり、大学院の博士後期課程に社会人入学しました。ですが、博士論文をまとめる最中に職場の異動や病気で入院するなどの困難や、非行少年や犯罪者の情報の守秘義務による制約などの問題をクリアしながら、研究論文としての学術性を高めていくことには苦労しました。ただ、論文指導の先生が厳しくも、とても面倒見のよい方であったのは、幸いでした。

書籍もデータも、しっかり読んで気付いたことを書き留める、それが、わたし流の学びです 

 今回の「わたしの学び」について、私の経験からお伝えするとすれば、多くの書籍をつまみ食い的に読むのではなく、それぞれの専門領域における体系書を最初から最後までじっくりと読み通すことが大切だと思います。それにより物事の全体像をしっかりとイメージできるようになります。私の場合は、あまり記憶力が良くないので、専門的な書籍・論文を読む時には、ワープロを手元において、気になった文章と自分の感想を入力していくのです。後で読み返すと、大したことがない内容も多いのですが、たまに「えーっ、こんな素晴らしいことを思いついていたんだ!」と自分ながらに感心することもあります。むしろ、良いアイデアは仕事中や布団に入った後など、研究とは全く関係のない時に浮かぶものです。そんな時はポイントだけわかりやすく図式化するなどして、小さな手帳に書き留めるようにしていました。

 最後に学生を教える立場となった私の今の思いをお話しましょう。私は、若い頃に職場の先輩から「矯正は人なり」とよく言われました。地味で責任の重い仕事ですが、犯罪者や非行少年の立ち直りのために多くの若い優秀な職員が支えています。私は、そんな現場で働く彼らの応援団となり、そうした現場の地道な苦労や努力を一般の方にも情報発信していきたい。できれば、志のある学生を、一人でも多く、犯罪・非行領域の仕事へと送り出したい。それが私のこれから果たすべき任務だと考えています。

[経歴]
岡山大学法文学部卒業
筑波大学大学院経営・政策科学研究科修士課程修了
東北大学大学院文学研究科博士後期課程修了(博士文学)
法務省の心理技官として東京、仙台、富山、神戸、松山など
全国の少年鑑別所や少年院、刑務所などで勤務。
2015 年に東京少年鑑別所所長を退職し、佛教大学教授、現在に至る。

(佛大通信2016年8月号より)

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