通信教育クロストーク

2016年06月08日
水田大紀研究室(歴史学科)

「研究室訪問」
歴史学部 歴史学科 准教授 水田 大紀(みずた とものり)


イギリスが世界を先駆した19世紀後半の社会の成り立ちが研究テーマ

 私が専門とするイギリス近代史は、イギリスが国家として最も先進し、世界的にも権力を持っていた19世紀後半、つまりイギリス帝国と呼ばれたヴィクトリア女王の時代がテーマです。私は当時の行政や社会の在り方など、特に多くの国がお手本とした官僚制度を中心に研究を進めてきました。
 イギリスの政治や行政は、経験主義的であり、過去からの取り組みを積み上げながら制度や法を確立しており、皆さんもご存じの“マグナカルタ(大憲章)”は、その象徴と言えます。
 19世紀のイギリスにおいて、行政の在り方に大きな影響を与えたのは、参政権の広がりです。イギリスの参政権は、最初は極めて限定された人々のみに与えられていました。それが19世紀から20世紀にかけて、商工業者、労働者、女性へと広がり、現在の21歳以上の男女に平等に与えられる普通選挙制度になったのです。
 また、近代化するイギリスの思想の中で重要だったのが能力主義という考え方です。この考えの確立に大きな役割を果たした人物の一人がサミュエル・スマイルズ(1812-1904年)です。彼の「天は自ら助くるものを助く」というセルフヘルプ(自助)の考えは当時の人々に大きな感銘を与えました。日本でも、幕府がイギリスに派遣した中村正直(1832-91年)により、スマイルズの『自助論』は『西国立志編』と訳され、『学問のすゝめ』を説いた福沢諭吉と並んで日本の近代化に影響を与えました。

試行錯誤しながらたどりついたイギリス近代史、その学びは我流でした

 現在、歴史学部で教鞭をとる私ですが、大学以前までは歴史を学びたい気持ちはありませんでした。実は第一志望の大学に落ちてしまい、その後、受かった大学で高校時代に得意だった歴史を選び、史学を学びました。学生時代は、教員や学芸員の資格などを取り、他の学生と同様の学生生活を過ごしていたのですが、史学を学ぶにも日本の古文書を読むには訓練が要るし、世界史を学ぶにもフランス語や中国語が必要で、でも語学は不得手だと痛感。選択肢に残ったのが、英語が主になるイギリス近代史だったのです。不得手とはいえ、英語は中学から教わっていたので、それでも馴染みがあったわけです。また卒業論文制作の段階でも、研究テーマを1カ月に3~4題、コロコロと変えて担当の先生によく怒られはしましたが、イギリス史専門の先生がいなかったこともあり、学び方はとにかく我流。自分なりに資料を探し疑問や気になったことを蓄積させていき、先行研究とともに調べて論文などを書くというもので、この四苦八苦する研究方法は今日にまで至っています。
 そんな私の歴史観に影響を与えた本を2冊ご紹介しましょう。1冊は民俗学の宮本常一先生の著書『忘れられた日本人』。私に日常生活やライフヒストリーを注意深く観察する視点の面白さや大切さを教えてくれた本です。もう1冊は、クセノポンの『アナバシス-敵中横断6000キロ』という戦記で、高校時代の先生に薦められた本です。振り返れば、これらの本が、私が歴史に興味を持つ原点になったのでは…と、思います。

学問に壁はなく、より広い視点から研究し広義に理解することが大切

 私が研究する際、大切にするものの一つに「学際性」という考え方があります。学問には分野の壁はなく、一つの学問も実は様々な学問分野につながっているということです。たとえば、ヒューマニズム(人間中心主義)という発想は人間という視点から物事を考え、自然科学は人間も含めた自然から物事を捉えます。その根底にあるのは「過去・現在・未来に渡り、我々とは何なのか」という普遍的な問いです。そのため、学びにおいては“ゼネラリスト”という広い視点から対象について考えることがとても大切だと思います。
 もう一点。これは、私がイギリスに留学していた時の話ですが、私は留学生仲間であった中東やアフリカ出身の友人たちとよく一緒に遊んでいました。そこで驚いたのが、私の「あなたの国では、こういう出来事があった」とか「こんな人がいた」などという話に、「私の国のことをとても知っている」と、友人たちがとても感動してくれたことです。アフリカや中東で日本の歴史を知っているという人は稀ですが、日本人は海外の歴史を高校時代に広く学ぶから、知っているのです。高校の世界史は、決して深くはありませんが様々な国の歴史を広く学べます。日本の教育の優れた点を、私はその時に再認識しました。
 このように、より広い視点で領域や分野にこだわらずに学ぶ。それが“私の学び”ではないかと考えます。


[経歴]
2010年 大阪大学文学研究科文化形態論 博士後期課程修了、博士(文学・大阪大学)、日本学術振興会特別研究員PD
2012年 大阪大学大学院文学研究科助教
2015年 佛教大学准教授、現在に至る

(佛大通信2016年6月号より)

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