通信教育クロストーク

2016年05月16日
能ある鷹は爪を出そう

「学部長の手帖から」
教育学部長 篠原 正典(しのはら まさのり)

 最近、「グローバルな視点から求められる学力」を考えるフォーラムに出席した。予想通り批判的思考力、問題解決能力など近年耳にする力が挙がった。グローバルをボーダレスと捉え、世界を相手に活躍することを考えたときに、英語力が重要だという人は多い。しかし、これは必要条件ではあるものの十分条件ではない。もちろんこれらの力は必要であるが、少し見方を変えて、どちらかというと感情的な面も含めて、私は「発言する力」ではないかと思う。これをさらに高度化した力が説得力、折衝力や交渉力など技術・技能を要する力であろうが、まずは発言しようと思う気持ちを創る初級編が必要な気がする。

 小学校では子どもたちが大きな声で発言する光景が見受けられるが、中学校、高校になるにつれてそれが消えてしまう。高校になると自分に自信を持つ自己肯定感が世界的に低くなっている。ところが、PISAといった国際的な学力は非常に高い。数学は嫌いだという割合が高いのに、数学の成績は世界でトップクラスである。日本人は不思議だと世界は思うかもしれない。高校時代までに身に着けた受け身の授業態度は、そのまま大学においても引き継がれていく。多人数の大学生を対象とした授業では、質問が出ることは稀有であり、教室で聞こえてくるのは質問ではなく私語である。このような状況であることから、学生は授業内容を理解していないのではないかと思うのだが、毎回出す課題には後日適切な回答を返してくる。日本人の私でも今の大学生は不思議だと感じる。

 動画サイトやプロフで自分自身をさらけ出す若者がいるかと思えば、大勢の中では自分を敢えて外に見せないようにしている若者も多い。授業の世界では特に後者に見える。競争ということに関しても、一昔は他者から抜きんでることを目標にしていたが、今は他者に置いてきぼりにされない競争に変わってきた。あることが自分の意に反していることであったとしても、人は大勢に従う傾向がある。大勢の前で自分を隠そうとする人が増えるほど、その傾向に順応して益々発言はなくなってしまう。

 もっと、自分の考えや力を外に出せばいいじゃないか。それらは外に見えて初めて役立つものであるから隠しておく必要はない。ましてやグローバル社会で活躍できる人になるためには自分から積極的にならなくてはならない。

 日本には謙虚さを美徳とすることわざがいくつかあるが、それらを見直してもよいのではないか。「能ある鷹は爪を出そう」、「出る杭(釘)は伸ばそう」、「雄弁は金なり」、公の辞書に載ることはないが、各自が我が辞書に留めて置いて欲しい。

(佛大通信2016年5月号より)

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