社会人が小学校の先生を目指すにあたり知っておきたい基礎知識
社会人になって改めて、小学…
「研究室訪問」
社会福祉学部 社会福祉学科 准教授 井上 洋平(いのうえ ようへい)
納得するまで学び研究する、化学者の夢はいつしか心理学の世界へ
私は、幼い頃からじっくりと物事を考えることが好きで、たとえば、円は中心を軸にした等しい距離の「点の集合」と言われてもその理屈にすぐには納得できない、そういう性分でした。小学校の卒業文集では、化学者になりたいと書いており、「~だからこうなる」という仕組みがわかる実験の勉強が好きでした。学部時代は多文化主義からマンガ学まで幅広く学び、3回生からは元々関心の高かった心理学の中でもとくに発達心理学という分野を中心に研究しはじめ、それから色々な出会いにめぐまれて現在の研究・教育への道へと進みました。
発達心理学とは、人が生まれてから死んでいくまでのプロセスの中で、人がどのように変わっていくのかを研究する学問です。たとえば、子どもの身体や行動の変化だけではなく、認知や感情あるいは日々の生活などを含むトータルな視点でとらえ、それぞれの時期の発達的特徴について、観察や実験などの方法を用いて検討していきます。人間には時期ごとにある程度共通する特徴があります。それを様々な視点から観察していきます。たとえば、1歳の子どもは、床に座っている時にうれしいと両膝を床につけながら曲げたり伸ばしたりしますが、2歳をすぎると次第にしなくなります。また、2歳では道具やモノの素材の意味も分かるようになってきます。4歳ではさらに違う成長が見られます。私は、こうした人間の節目、その時期だから楽しめる理屈を明らかにしていくことが面白いと考えています。
子どもたちを観察し、年齢ごとの行動の差異から、発達の特徴を知る
私の研究は、小さな子ども(1~3歳)に協力してもらうことが多いため、実験を実施する前に子どもと一定の信頼関係を築く必要がありますし、それにはかなり時間がかかります。また、実験方法も子どもの頑張りがとらえやすいアナログ的なものを好んで用いています。
こんな例があります。小学校1~2年の子どもに、「“北”と“南”はどこが似ている?」という質問をします。「方角」というのが正答ですが、子どもたちは時間をかけて考えた上で「出口」、「学校」、「北大津」や「南草津」といった地名で答えてくれます。間違った子どもの回答からは、北と南をあわせもった具体的なモノ(事物・出来事)を自分の経験から探してきたという、その子のなりの理屈が見えてきます。逆に正答する子どもは難なくできてしまうので、間違った子どもたちに比べてその思考や理屈は見えにくいのです。私は、間違っていた子どもができるようになっていくプロセスを見ていくことで、思考の変化、人間の変化を考えています。
こういう例もあります。部屋に出入りできる4枚の襖。2~3歳児は1枚の襖を開けて閉めたつもりが、別の襖を開けたために結局襖を閉めることはできません。ところが4歳くらいになると、4枚の襖の場所を理解してちゃんと開閉できるようになります。日常にありふれた何気ない場面ですが、そこに着目してなぜそうなるのかを導いていく研究スタイルは自分に合っているようです。
幅広い視点から、人間の発達を研究する、それが私の学びのスタイル
私は、様々な道具の力も借りながら子どもを観察していきます。子どもの時期(発達段階)によって、道具や素材といったそのモノの意味がどう変わるのか、それらは大人の接し方にも影響を受けますので、広い視野で調べていきます。たとえば「新版K式発達検査2001」という発達検査では、積木を使ったりしますが、子どもがどこを見て何を頑張ろうとしているか、道具を通してこそ見えることがあります。
実践研究では、保育現場や学校現場の先生方と共に子どもの姿を見ていきます。対応への悩みや実践の苦労があれば、解決の糸口を先生方と一緒に考えていきます。私も意見は述べますが、やはり、現場で頑張っておられる先生方が主体となって考えていくことが大事だと思っています。
学生の皆さんが発達心理学を学ぶと、何かにつまずいている人に「なんでできないの」という眼差しを向けるのではなくて、その人の頑張りや苦労に自然と目が向くようになり、それが福祉や教育をはじめとする対人援助の現場に出た時の土台を広げることになるのではないかとも考えます。
今日では、社会において子どもに関わる問題が多くなっています。これまでお話したような学びは、たとえ直接的ではなくとも何らかの力になるのではないでしょうか。通信教育課程の皆さんには、まだ、スクーリングでしかお会いできていませんが、このお話が皆さんの学びの一助になればと思います。
[経歴]
1978年生まれ。立命館大学産業社会学部卒業、立命館大学大学院応用人間科学研究科修士課程修了(修士 人間科学)、立命館大学大学院社会学研究科博士課程後期課程修了(博士 社会学)。奈良教育大学教育学部特任講師・特任准教授、福山市立大学教育学部准教授を経て、2015年4月より佛教大学社会福祉学部准教授。
[著書]
『対人援助学を拓く』(共著)(晃洋書房、2013年)
[論文]
「幼児の「口ぐせ」の発達的変化:実習を経験した学生への調査」(福山市立大学教育学部、福山市立大学教育学部紀要、2巻、2014年)他
(佛大通信2016年5月号より)