通信教育クロストーク

2016年04月18日
画像・映像情報がまねく誤解

「学部長の手帖から」
歴史学部長 渡邊 秀一(わたなべ ひでかず)

 「目は口ほどにものを言う」という言葉がある。口から音として発せられる言葉は私たちにとって情報を発信し、受信するための日常的な手段であるが、音を発することがない目の表情(?)も、心の動きを写して言葉には表れない情報を発信している、といった意味であろうか。確かに「目配せ」や「アイコンタクト」といった言葉もあり、目を通じて情報が伝達されることはあるだろう。しかし、目は情報発信の手段というより、迅速かつ大量に情報を受信する役割の方が重要である。

 私たちが日常的に発信し、受信している情報を仮想性と現実性という点からみれば、文学作品や絵画・映画のように製作者(制作者)が明確な意図をもって情報を取捨選択し、時にはデフォルメしているため、誰の目にも仮想性が明らかなものがある一方で、伝達される出来事と時間と場所を共有しているかのようなリアリティをもった情報もある。前者は「つくりもの」であることが自然と了解されているが、後者は「つくりもの」であること(仮想性)を忘れさせる。

 その良い例が2016年2月5日18時56分の桜島噴火を伝えたニュースである。桜島が噴火しているニュース映像を見るや、親族や友人の安否を気遣い、電話やメールをした人は多かったに違いない。鹿児島市に住む知人も親族から安否確認の電話があったとのことであった。しかし、当の本人はその電話があるまで噴火があったことは知らなかったと言い、またニュースを見ても桜島では日常的な規模の噴火でしかなく、その程度の噴火がなぜ大騒ぎになっているのかわからなかったと言う。友人のその後の冷静な分析によれば、熱を感知すれば赤く映る赤外線カメラで撮影した映像を使用したことが騒ぎを大きくした要因の一つだという。火山灰でも噴火直後で熱をもっているため赤く映り、実際より大規模な噴火が発生したように見えてしまったのである。ニュースキャスターも赤外線カメラの映像であることは伝えていたであろう。しかし、暗がりの中に立ち上る赤い柱を映した映像のリアリティ、感覚に直接的に訴えかけてくる分かりやすさが理性的な言葉を圧倒したのである。

 IT化が進む現在、さまざまな情報が画像や映像としてあふれている。それは多くの人が情報を容易に共有できるだけでなく、画像・映像により分かりやすいかたちで情報が行き来する環境になっているという点で歓迎すべきことである。しかし、人の手を経て構成されたものであることを忘れさせ、感覚を刺激するようなに情報の発信というものが、誤解を招きやすくなっていることも確かである。教壇に立つ私も画像を頻繁に使う情報の発信者として自戒しなければならない。

(佛大通信2016年4月号より)

TEL : (075)491-0239
受付時間 10:00~17:00(13:00~14:00を除く。木・日・祝日休み)
ページトップ