通信教育クロストーク

2016年03月11日
龍面瓦のこと

「学部長の手帖から」
社会福祉学部長 渡邉 保博(わたなべ やすひろ)

 少し気晴らしにと思って京都の寺を見て回るうちに鬼瓦に興味を持つようになった。ついでに写真を撮ってみようと思い立って、デジカメでパチパチやっているうちに、鬼瓦ではなく龍の姿の瓦が目に入ってきた。龍面瓦というらしい。京都左京区の金戒光明寺の三重塔と納骨堂(旧経蔵)、真如堂、東山区の泉涌寺舎利殿、右京区の仁和寺五重塔などで見ることができる。写真は、金戒光明寺三重塔の龍面瓦である。

 ネット情報(ウィキペディア・フリー百科事典など)によれば、南宋時代(12世紀)の後半の自然博物誌『爾雅翼』巻28「釋魚一」に龍の情報が記載されている。角は鹿、頭は駱駝、眼は鬼(幽霊)あるいは兎、胴体は蛇、腹は蜃(しん・みずち・みずら)、背中の鱗は鯉、爪は鷹、掌は虎、耳は牛にそれぞれ似るという。また口ひげは長く、のどの下には逆鱗があり、あごの下に宝珠を持っていると言われている。中国では龍は皇帝の吉兆のシンボルで、水中か地中に棲むとされることが多い。その啼き声によって雷雲や嵐を呼び、また竜巻となって天空に昇り自在に飛翔すると言われる。日本には、様々な文化とともに中国から伝来し、元々日本にあった蛇神信仰と融合し、水の神として各地で民間信仰の対象となったりしたという。

 富山弘毅さん(世界鬼学会会員)によれば、西欧では龍はドラゴン。大きな翼をもつ凶暴な怪獣で、聖書でも「倒すべき敵」とされているという。富山さんは、「そんな龍を数10cm四方の瓦にしてしまう日本の鬼師たちのデザイン能力には感服します」ともいう。

 さて、龍面瓦とはいっても、龍そのものは、瓦面から今にも飛び出し、天に飛翔しようする姿形をしていた。また、龍面瓦ではなく龍頭といわれる瓦も見つけた。名前の通り龍の頭そのものが瓦になったものである。たとえば、1053年(天喜元年)に建立されたという宇治・平等院鳳凰堂の正面と背面の大屋根に、各2つずつの龍頭瓦を見ることができる。中畔明日香さんの紹介(屋根から下された龍頭瓦.絲海第38号.伊丹市文化財保存協会.2013)によれば、この鳳凰堂の龍頭瓦は鬼瓦の鬼の顔部分と同様に、板状に切りだした粘土を内型に置き(のせ)成形し、龍の頭(顔)の立体的な凸部分(額・鼻・髭・験・耳・角・唇等)は粘土を足して造られているという。南区の東寺金堂の屋根には、龍頭どころか龍の全身の瓦もある。「龍身瓦」とでも呼んでおこう。

 龍面瓦、龍頭瓦、「龍身瓦」は、東南側の屋根にしかないようである。お寺の関係者に聞くと、龍は水の神で火災除けのまじないだという。南東角だけというのは、龍神と方位との関係があるようだ。このあたりは、これから調べてみたいと思っている。

(佛大通信2016年3月号より)

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