通信教育クロストーク

2015年11月13日
平田豊誠研究室(教育学科)

「研究室訪問」
教育学部 教育学科 講師  平田 豊誠


地学の基本は、実物に見て、触れる、フィールドワーク

 私たちが生きている地球。地球上では数多くの生物が生息し、そこで人間たちは文明社会を築いています。その地球自体をーつの固体としてとらえ、成り立ちなど、未だ解明されていない事象を研究し、追究する。それが、私が専門とする地学という学問です。

 地学には、地質学、気象学や天文学などの分野がありますが、私が専門とするのは、“地べた”そのものの地質(他に地震学、火山学など)です。なぜ、この分野に興味をもったのか・・・?と、よく人に聞かれるのですが、理科教育の指導者を目指し、大学で学んでいる間に、気がつくと地学に没頭していました。

 地学研究の基本は、まずフィールドワークです。研究対象とする地層のある場所に出向き、そこの地層から、岩石をハンマーで割り採取して、サンプル袋に入れて研究室に持ち帰り、性質を分析するとともに、その結果から採取した場所の地質的な特性や土地の歴史を探究するわけです。

 小学校から高校まで、地理は、社会の分野で学びますが、社会における地理は基本的に人類が誕生してから今日まで。私たちが研究してきた理科分野の地学は、天文では宇宙の始まりの138億年前から、地球誕生の46億年前から何億年、何千万年、何万年前というような単位で、宇宙の中の地球という壮大な歴史の視点で研究するものです。大学や大学院で学んでから現在も、この学問が私の原点となっています。

地道に、正確に、課題を解析する、忍耐と努力の地学研究

 地学の魅力は「自然の造形美」です。地球の地層や鉱物からは、何億年、何万年という時間が作り出した、人工にはない美しさ(例えば褶曲や断層、鉱物の結晶面、富士山もその 一つ)を見ることができます。

 地学の授業は、理論の座学だけでなく実験やフィールドワークが多くありました。先生が持論を話された後、地図や資料を読み解き、大学院生の先輩から調査方法などを指導されて知識や技能を習得。現地へ行き、休日の1日で地層の見方から調査方法までを実習しました。また、鉱物学の試験は問題が5問で試験時間は7時間(弁当持込)というのもありました。

 野外実習で訪れた南西諸島の西表島の調査の行程は、11泊12日。那覇から船酔いしながら20時間かけて到着し、そこでサンゴ礁やマングローブの樹林の中を、海水に浸かりながらひたすら調査しました。「自然の造形美」を追い求めるのが地学のロマン。とはいえ、フィールドワークの実際とは、冒険とも言える地道で、苛酷な作業なのです。

 これらの授業や実習で得た知識や技能を総動員して卒業論文は作成します。例えば、水晶も石英という鉱物の一つですが、水晶を産出する地質特性の研究であれば、石英を含む地質を検討し現場へ出向きます。そこで採取した試料の特性、岩脈の場所や角度などの数値をデータ化し図式化し、記録し、岩脈の地質特性などを見出していくのです。地質学は岩石や鉱物などの地質サンプルの収集が大切。そこから得たデータが、新たな知見かどうかを吟味するのです。データが足りなければフィールドへ出向いて滞在し、サンプルを採取してくるのです。

習ったことに疑いを持つこと、理科教育は既成の学びへの疑問から始まる

 地学の話が長くなりましたが、私の専門は理科の教育学です。本学で教鞭を取る以前は、中学校の理科教員として長く、理科の魅力を子どもたちに教えてきました。

 理科を教えるためのメソッドは多く提唱されています。どれか一つが最適というものではなく、授業を重ねるなかで、子どもたちが何に興味を持つのかをつかみ取り、そこで、どうすれば良い授業になるのかを考え、常に工夫しながら、独自の教材を用いるなどして、最良の理科教育を求めていくわけです。こうした理科教育を専門的に教える上でのポイントは二つあると思います。ーつ目は、1教えるにはその内容を10倍理解しておく必要があります。そのためにより高度な内容を学び、分かりやすく教えるためにどうするかを考え続けることです。二つ目は、「習ったことが全てではない」ということです。河原の石は、下流ほど細かく丸くなりますが、実は豪雨による洪水や土石流などで上流から一気に運ばれたりしたものがほとんどであり、上流から流されるにつれて石どうしがぶつかり合ってだんだんと小さくなりながら運ばれてきたわけではありません。(大きいものは残されやすく、ある程度小さいものは運ばれやすい)

 こうした、事実を発見して知ることの感動こそが、理科の醍醐味であり、教育者としては、それをどのように子どもたちに伝え、理解してもらえるか・・・を日々考えながら、自らの学習を怠らず工夫し続けていくことが、理科教育のポイントなのだと思います。


経歴
1997年、大阪教育大学大学院教育学研究科修士課程修了。大阪府公立中学校教諭、大阪教育大学附属池田中学校教諭、主幹教諭を担いながら、2012年、兵庫教育大学大学院連合学校教育学研究科博士課程単位取得退学、博士(学校教育学)。大阪府寝屋川市教育委員会 指導主事を経て現職。研究領域は、理科教育学、地学教育。

(佛大通信2015年5月号より)

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