社会人が小学校の先生を目指すにあたり知っておきたい基礎知識
社会人になって改めて、小学…
KYOTO TIME TRAVEL
伝統をつなぐ・未来をつくる・京都をめぐる
近鉄十条駅から歩いて5分ほど、京都南ICからは車で10分の上鳥羽公園に京都動物愛護センター(愛称:動物愛ランド・京都)はある。広い芝生のヒルズドッグランも隣接するこのセンターへ公共政策学科の水上象吾先生が訪れた。
京都動物愛護センター(愛称:動物愛ランド・京都)
2015年5月、全国初となる都道府県と行政市が共同して設置・運営する動物愛護・管理施設として、京都市南区の上鳥羽公園内に開所。京都の新しい動物愛護の拠点として、センターに収容された犬猫を新しい飼い主に譲渡したり、職員とボランティアによる啓発活動を実施。動物との関わりを考え、人と動物が共生する街づくり拠点としての役割を果たす。エントランスホールには、施設のパンフレットや保護犬・猫の里親募集の写真などが展示されている。木のぬくもりを感じる開放的な空間。
水上 象吾(みずかみ しょうご)
社会学部公共政策学科准教授。
東京都立大学大学院都市科学研究科修了。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 特別研究助教を経て現職。研究テーマは、自然希求意識を基調とした都市における自然の評価、庭園において自然享受を誘発する視覚環境条件の解明。主な論文に「都市郊外の居住環境における緑視率と住民による住居での花の装飾行動との関係」(ランドスケープ研究Vol.77, №5, 2014年)など多数。
河野 誠(かわの まこと)
京都動物愛護センター相談係長・獣医師。2007 年度に京都市に「獣医師職」として入庁。京都動物愛護センターについて構想の検討段階から携わり、センターの立ち上げ時から在籍。現在、センターにおける普及啓発イベントやボランティア事業などの統括に従事。
公園の中にある京都動物愛護センターは、外から保護されている猫を見ることもできる開放的なセンター。職員とボランティアスタッフが協働で現場作業や普及啓発イベント・機関紙の作成などを実施している。
ボランティアの声から生まれた、あるべき姿
水上:ここは便利な場所ですね。
河野:はい、有料の駐車場もすぐ目の前にあって、いまの時期は1日に100人ぐらい来られます。
水上:ドッグランが目当てで来られるのですか。
河野:いや、譲渡希望者やおそらく京都観光に車で来られて、こういう施設があるのならと来られる方もありますし、特定の犬種が好きな飼い主さんが集まって、貸し切りのエリアを使われたりしていますね。桜のシーズンや京都観光が賑わうシーズンは、県外からの人も多いです。
水上:開設されてから、まだ3年ほどですが、広く認知されてきているのですね。
河野:多くの行政機関や関係団体、議員の方など、全国から視察にも来られます。その理由は、いろいろな要素に注目していただいているからだと思います。たとえば、行政の効率化といった議論がある中、京都府と京都市が共同で設置している施設であること、またボランティア事業として注目されている場合もあります。
水上:ボランティアで多くの方が関わっておられるのですね。
河野:京都市以外からもボランティアに来られていて、掃除や犬の散歩、また機関紙の編集などを手伝っていただいています。また、子どもを対象にしたイベントを2カ月に1回ぐらい開催していて、その内容から実践までボランティアさんが関わっています。啓発活動などに、これほど多くのボランティアが関わっているのは京都だけです。そもそも本センターができたのは、京都市の家庭動物相談所が老朽化で耐震の問題があったり、頭数のキャパシティだったりといった課題があったのですが、それらを解決するために、動物愛護センターのあるべき姿について、多くの方に意見を伺ったという経緯があります。ですから、ボランティア事業をしていこうというよりは、ボランティアとして関わっていきたいという方がそもそも多くおられたということで、行政はその関わり方のルールづくりをしただけなんです。
行政としては早期にアカウントを取得してHPを開設したり、譲渡する猫や犬の情報についてもフェイスブックやツイッターなどで発信。啓発活動にも力を入れている。
地域のことを地域で考えられる人づくりを
水上:SNSでもいろいろ発信されていますね。それも、ボランティアの方たちの意見が反映されているのですか。
河野:そうです。多くの人から意見をいただく中で、よりわかりやすい情報発信となっていきました。当初は否定的な意見もあって、炎上したらどうするんだとか。でも個人的なスタンスとしては、あかんかったらやめたらいいし、とりあえずやってみようということで、いろいろ取り入れるようにしています。たとえば、新しい飼い主さんの募集では、「可哀想な写真よりも、もっと可愛らしくて、いきいきしている写真のほうがいい」と意見をいただいて。そういう写真のほうが、SNSは拡散されやすいし、いろいろな人に見ていただけるということでした。ボランティア自身に写真を撮っていただいたり、動物の写真を撮るための教室も開いています。
水上:そういう勉強会のテーマも、ボランティアの人たちが考えるのですか?
河野:そうです。それと、私たちからぜひともこういうことを学んでほしいというテーマもあります。ボランティアさんには、3年間の登録期間を設けていて、3年後は地域のサテライト的な役割を担ってもらいたいと思っています。これがボランティアの事業の本質で、人材育成なんですね。そこで、地域の中で知っておいていただきたい、たとえば災害時の防災のことなどテーマとしては重いのですが、そういうことを伝えて、動物のことにも相談にのれるようにと。ボランティアとしての労力面だけではなくて、人づくりをして環境づくりをして、最終的に共生社会を目指しています。一歩ずつ地道に取り組んで、人材を輩出できれば、変わっていくという考え方です。
一言に人と動物が共生するといっても、私たちは具体的にどう行動すればいいのだろう。
真に人と動物が共生する社会とは?
水上:人と動物が共に生きるためには、いま、どんな課題があるのでしょう。
河野:国によってペットを取り巻く背景は違いますが、ドイツなどに比べると、日本は保護する頭数が圧倒的多いんです。この施設で犬は1年間に100~200頭前後、猫なら1000頭近く。殺処分の9割は子猫です。犬は子犬ではなくて、高齢犬が捨てられる割合が多くて。
水上:長年、一緒に暮らしてきている犬のはずなのに……。
河野:そうですよね。その一方で、飼い主さんが亡くなられる場合もあります。飼っている犬が8歳、10歳になったときにご自身の問題が出てきて、引き取りを希望されたり、捨てられてしまったりすることがあるんですね。だから、本センターにいるワンちゃんは高齢な犬ばかり。野良猫の子猫の場合と、犬とでは状況が異なっていて人為的なところがあるので、確実に人に伝えていかなくてはいけない。そういう意味で飼う前に考えようと、そこを強く伝えるイベントを開催したり、学校へ出前講座に行ったりしています。飼い主ももちろんつらい思いをするし、犬も可哀想で、誰も幸せではないですから、そういう構図を未然に防ぐ普及啓発をしなければならないと思っています。
水上:いい面だけでなく、悪い面も一緒に見ていくのが共生ということになるんでしょうか。
河野:そうですね。人を噛んでしまうような飼い方をしてしまうと、周りに犬を嫌いな人を作ってしまう。猫に餌だけをやる方がおられるとき、その猫が悪さをしたり、フンがにおいを放つ、鳴き声がうるさいとなると、その方を中心に猫を嫌いな人が生まれてしまう。ただ単純に好きということを先行させてしまうと、不幸なことになってしまいます。みんなが犬や猫のことを好きでなくてもいいのですが、好きなのであれば責任が生じるのですから、しっかりと考えてもらうということ。その犬や猫が地域の中で受け入れられる存在になってもらうためには、じゃあ何ができるのか、それもしっかり考えてもらわないと。犬や猫を飼えないような地域を作ってしまっては、本末転倒ですからね。共生社会を目指すには、しっかり管理することも必要であると伝えたいです。
水上:なかなか難しいことですね。
河野:目指すのは、人も動物もストレスのない社会。動物が好きなのであれば、嫌いな人を増やしてしまわないように、責任をちゃんと果たさないといけない。それが、共生社会のまず一歩なのかなと思います。
水上:いま、動物との関係について、急速に変わっていく時期に来ているような気がします。誰もが理解しないと進まないことですね。
河野:そうですね。愛護センターを知っておられる人も増えて来ていて、まず知っていただくことが重要だと思っています。
水上:今日は、いろいろと考えさせられて、多くの人に訪れていただきたいと思いました。どうも、ありがとうございました。
(佛大通信2018年9月号より)