社会人が小学校の先生を目指すにあたり知っておきたい基礎知識
社会人になって改めて、小学…
「学びのサプリ」
教育学部 臨床心理学科 講師 高橋 伸彰(たかはし のぶあき)
心理学は幅広い学問 専門家であるとともにジェネラリストに
私が思春期の頃は脳科学がブームになった時代で、そんなテレビ番組も多くあり、興味をもつようになりました。文系で脳科学というと心理学。それで、大学は心理学科へ進みました。
学部時代の恩師である東條正城先生は、生理心理学の専門家でありながら、大学が臨床心理士第1種指定校の認定を受けるために著名な精神分析家を招くなど、「基礎と臨床」の橋渡しをして、ジェネラリスト教育にご尽力されました。心理学は心を扱う学問なので、その領域はものすごく幅広く、たとえば社会心理学は社会から人を見る学問ですが、パーソナリティ研究では個々の人を対象とします。視点はマクロとミクロでまったく異なりますが、人の心を見る点においては同じ。心というものを理解するには、一つの見方にこだわっていては、全体を捉えることはできないことを知り、学生時代から幅広く勉強していました。
それから時代は流れ、今年から国家資格である公認心理師の試験がはじまります。その背景には近年、地震や水害などの災害が多発していることをはじめ、心のサポートを求める人が多いといった社会的な要請があります。また、「科学者―実践家モデル」という言葉を耳にする機会も増えてきました。臨床心理学の専門家は、科学者として心理学をしっかり学んだ上で、実践心理学を学びましょうというモデルであり、科学者や心理学者として全般的な教養を身に付けておくべきだというジェネラリストの考え方です。今度は、私が本学において、「基礎と臨床」の橋渡し役を担えればと考えています。
依存・嗜癖は誰にもあること 当事者性があるから研究を続けられる
初めて「依存・嗜癖」の研究に従事したのは、修士課程修了後に就職した研究所の薬物依存研究部でした。研究所に就職したのは、大学の掲示版に貼られた就職情報を見ていたときに後ろから廣中直行先生に肩をポンポンと叩かれ、「あんたのような中途半端な人がいいんじゃ」と紹介されたのがきっかけ。私は先生のゼミ生ではありませんでしたが、それ以来、よく面倒を見てくださり、科学技術振興機構時代では直属の上司でした。
依存は誰にでもあることで、何かいいことがあれば、それを続けるというのは、進化によって備わってきた私たちの能力。いいことがあったと記憶することは、生存するために重要なことです。たばこにしても、ニコチン依存が問題になってきたのは、紙巻きたばこができてから。一般に薬物は入手しやすくなったり効きやすくなることで、依存されやすくなります。廣中先生の受け売りですが、依存や嗜癖の問題には悪者はどこにもいません。コントロールを失ったり、止めようと思っても止められないのが、依存の定義です。私は、学生時代に酒とたばことゲームにハマっていたことがありました。当事者性があるからこそ、今まで研究を続けて来られたのだと思います。
人間が面白いのは個人差があるから 心理学の根本にあるテーマを研究
依存や嗜癖を考えるとき、ハマる対象もその人のキャラクターなどによって個人差があります。人間が面白いのは、この個人差があるから。個人差の研究は、実は心理学でも最初の頃に取り上げられたもので、ダーウィンの時代から興味をもたれていたことです。私は、自分が見ている風景と、人が見ている風景は同じなのかなと思うような子どもでしたが、その興味はいまも変わりません。
いま、臨床心理学の基礎研究をこの環境でできればと考えています。いろいろアイディアはあるのですが、たとえば自閉症や統合失調症の人が見ている世界が私たちとは違うことがわかっていて、そんなふうに体験している世界が違うのであれば、それを描画にしたときに、当然違う絵になるでしょう。また、あるものに対するイメージそのものにも個人差があり、少なくとも、その認識の仕方、イメージ、絵にしたときの3 段階で個人差が生まれるので、どこでどういう理由で、その差が生まれたのかを研究することもできるのではないかと思っています。
大学院修士課程の頃から研究をしてきて、狙い通りの研究結果が得られるようなことは、ほとんどありません。研究所に勤めていた時期は国の研究費による研究をしていたこともあり、ホームラン狙いの研究ばかりしていたことも理由かもしれません。いまは、コツコツとバントヒットのような堅い現象についてばかり研究していますが、余裕ができたら、またホームランを狙いたいと思っています。
[経歴]
2003年、専修大学大学院修士課程修了。国立精神・神経センター精神保健研究所、科学技術振興機構、NTT コミュニケーション科学基礎研究所の研究員などを経て、2017年より現職。2014年、関西学院大学大学院文学研究科総合心理科学専攻 博士学位(心理学) 取得。専門は、健康心理学、発達臨床心理学。
(佛大通信2018年9月号より)