通信教育クロストーク

2018年12月02日
学習体験記 歴史文化学科卒業生(T.Fさん)

歴史学部 歴史文化学科 卒業生

 私と佛教大学との「縁」は、通信教育課程大学院の国文学専攻(修士課程)、社会学部への学士入学、文学部人文学科仏教芸術コースへの学士入学を経て4度目となりました。

 京都学コースを選んだ理由は、次第に京都の歴史文化や風土に親しみを持っていたことが挙げられますが、通信教育課程大学院では、源氏物語に関連するテーマを、仏教芸術コースでは、源氏物語の絵画化の手法について研究を進めました。特に絵画資料には、平安朝貴族の庭園の様子が描かれており、京都学コースでは、平安貴族の文化生活の場である寝殿造り庭園について研究を深めてみたかった為です。

 具体的には平安時代の作庭法を伝えていると言われて来た文献である『作庭記』という書物を手がかりにして、現存する実際の庭園との比較を通じて、どの様に成立していったのか、そうして、どの様に変化したのかを探り出そうとしていました。

 ところが実際の『作庭記』の内容は、平安時代の貴族庭園の実像とはかなり、かけ離れたものでした。更に、いくつもの建築史学(日本庭園史)の観点からいくつもの研究や論文が出ていたので、オリジナリティのある研究成果を挙げることは、非常に難しい状況でした。これらの結果、『作庭記』の一体何を、テーマにして研究を進めるかを絞り切れていなかった為に、論文の着手も遅れました。

 結局、方針転換し、「作庭秘伝書」を中心に据えて、その文献学的研究を主体に行うことにしました。

 具体的には、『作庭記』の原本は、谷村家本しかないと言うが、近世以前のこの書物の写本の伝写に関する記述は殆ど残っていない。それで、中近世の庭園秘伝書にどの様なものが存在するのか調査を行っているうちに、慶應大学本『作庭記』に出逢いました。詳しく調べてみると、この4巻からなる写本は、『作庭記』を含めて、それ以外の3種類の本文から成る合巻本であることが、判明しました。

 『作庭記』以外の庭園の秘伝書が存在したこと自体が驚きでしたが、図解入りの作庭の秘伝書であるという珍しさに惹かれて、写本の翻訳作業を進めました。その結果、『作庭記』の次に収録されている図解入りの秘伝書は、『嵯峨流庭古法秘伝』に分類される作庭奥義書の一種であることが判明し、中世から明治期直前までの四百年間に書写が続けられて、日本文化史でも稀な膨大な量の写本が存在することを知りました。

 先行研究を手がかりに、中世から江戸時代に至る写本の系統樹を組み立てるべく、写本の書写年代、書写者、書写された場所等を重点的に調べました。

 地道かつ長時間の過酷な作業を伴うものでした。写本の翻刻、校合、写本の系統の推察、主要な書写者の伝記も調べました。書写の様子が日記に記されている場合もありました。

 これらの研究作業の結果、『嵯峨流庭古法秘伝』の書写ということが実は、口伝を含めた秘伝の伝授であること、その秘伝伝授は、寺院庭園を前にして行われていたことなどの全てを調べ上げるには、2年と言う履修期間で論文を書き上げることは困難であり、結局、休学と留年ということで通常の履修期間の倍を要することになりました。

 長時間に亘る論文履修を支えて下さった指導教官の先生のおかげでなんとか論文の提出までこぎ着けたのでした。論文には心残りなことが多い。特に、嵯峨流の根本思想には、「不動石」の記述がみられる様に、真言宗の影響が存在していることは、フィールドワーク調査の結果、おぼろげながら浮かび上がって来ましたが、それを究めるだけの時間がもうありませんでした。

 この様にして、辛うじて論文の執筆も完了しましたが、スクーリングの履修が多忙な職務の中でなかなか進まず、最後の最後に3科目が残り、結局、履修が完了せず、そうした時に母親の介護、入院、ホームでの急死のアクシデントもあり、ちょうど冬期スクーリングの時期でしたが、欠席せざるを得なくなり、論文提出不許可となるなどの試練がありました。翌年、母の死を乗り越えて、9月卒業を目指して、再び研究・学修を再開しましたが、8月まで履修が詰まっており、更に卒業論文の最終仕上げ等、多忙な状況でした。

 最後に皆様方にアドヴァイスをさせていただくとすれば、3年次編入の場合は、その時点で卒業論文のテーマだけでなくて、どの様な手法で、進めていくかが決まっていないと殆ど時間がありません。卒業論文は、卒業研究の成果としてまとめ上げたものですから、研究自体が煮詰まっていなければ、書き上げることは、困難です。

 論文の所在については、データベースを参照してオンラインで読めるものは、直ぐにダウンロードすること、雑誌のコピーを取り寄せる等の必要もあり、図書館を活用して、出来るだけ効率よく史料を集めましょう。また、研究や科目の履修に当てる時間を週末にするのか、あるいは、平日の早朝、深夜にするのか、出来れば、毎日少しずつでも取り組んでいくことが必要だと思います。

 基礎ゼミ・発展研究ゼミを先ず履修して、指導される先生のアドヴァイスを受けてテーマの範囲を限定し、どの様に研究と論文の執筆を進めるか明確化しておくことが肝要です。指導教員のプロフィールをインターネット等で調査すること。自分に合った先生に教わると効率的なので、研究テーマを決定する際には、どの先生の教えを受けるのかを想定して、その先生の専門領域と一致するテーマを選ぶことも一つの方法だと思います。

 指導教官決定後は、出来るだけ多くの面接指導を受けること、先行研究の調査を十分に行うことです。また、史料解読のスキルが必要ですから、常日頃から様々な文献を読解する力を養っておくことです。スクーリングの履修は、早い時期に春、夏の2シーズンを中心に1年で半分以上を必ず履修することにしておけば、アクシデントが起こっても、卒業への道が近くなるでしょう。「出来るときに出来ることを直ぐに行う。先延ばしにしない。」これが大切だと思いますね。

~プロフィール~
2013年10月 佛教大学歴史学部歴史文化学科京都学コース3年次入学
2017年 9月 同卒業

(佛大通信2018年7月号より) 

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