通信教育クロストーク

2018年10月16日
新井康友研究室(社会福祉学科)

「学びのサプリ」
社会福祉学部 社会福祉学科 准教授 新井 康友 (あらい やすとも)


4年間遊ぶつもり…が一転 生涯の学びと出合う

 正直に告白すると、佛教大学へは何となく入学しました。普通に学生生活を送っていたところ、友達に誘われてボランティア活動を経験。そこで出会った、自分と同い年ぐらいの障がい者の方が亡くなられたのです。お葬式の際、親御さんが「この子は親孝行だ」と仰いました。もちろん悲しんでおられるのですが、親が亡き後、その子が一人残されることを思うと、先に逝ってくれてむしろ親孝行だと話されるのを聞いて、驚きました。そのことがきっかけで、2回生の進級と同時に、社会学科から社会福祉学科へ転科しました。

 当時、学びの対象は障がい者福祉だったのですが、アルバイト先として特別養護老人ホームを紹介してもらいました。そこでまた衝撃を受けました。その頃は8人部屋もあり、視界を遮るカーテンなどもナシ。おむつ交換の様子などが廊下から丸見えなのです。男女で部屋は分けられていましたが、女性の方とて状況は同じ。日本の高度経済成長期を支え、今日の基礎を作られた方たちの晩年がこれで良いのかと。本当にショックで、もっと豊かな老後を過ごすべきだと思って、老人福祉に興味を持つようになりました。

 

自分の目で見て体験して考える 声を上げるためにも

 座学も大事ですが、ボランティア活動にも取り組んで欲しいと思っています。私自身もボランティア経験がなければ、福祉の道に進んでいなかったでしょうし、大学教員にもなっていなかった。また、本や資料から学ぶことも、もちろん大切だとは思いますが、私にとって大きかったのは先生方との出会い。様々な機会をとらえてディスカッションするなかで、国の福祉政策を批判的に見ること。情報を鵜呑みにするのではなく、本当にその施策が国民にとって役に立つのかなど、常に客観的に考えるという視点を学びました。

 卒業後はホームヘルパーの仕事をする機会がありました。ホームヘルパーは訪問先から訪問先への移動もありますし、施設と違って設備もない。何かトラブルが起きた時には自分で考えて対処しなければなりません。労働条件が厳しいにもかかわらず、専門性が評価されていません。そうしたことがあり、ホームヘルパーの専門性を研究したくなり、仕事を辞めて大学院に進学。ホームヘルプの実際と課題について研究をしました。

 介護事故もテーマの一つ。きっかけは裁判の手伝いをしたことでした。裁判官や弁護士は介護の実態についての知識が乏しく、研究された統計もない。裁判は4、5 年間争うものもあり、事故現場にいた介護職員の証人も当時を覚えていないことが多い。老人福祉を教えていた私は、教え子たちがこうした事故に関わってしまうことを考えると、統計を取ってどんなタイミングで起こるかを調査する必要があると思いました。事故はゼロにはできないけれども、減らすことはできる。警鐘を鳴らす意味でも誰かが声を上げねばならないと考えています。

 

人がやらないからこそタブーをあえて突き詰める

現在、主に進めているテーマは孤立死です。死後何カ月も遺体が発見されないと白骨化が進み、マンションなどは事故物件になる。民生委員さんは責任を感じてしまう。また地域ではタブー視され嫌がられる傾向にあります。ただ、一人暮らしの方の孤立死は偶然性もあり、防ぐことは難しいのです。ですが私は防げると考えています。

 当たり前の話ですが、孤立死した当事者の方に出会えず、生の話は聞けません。そのため、過去に社会的孤立されていた方へインタビュー調査を行っています。こちらも同様に簡単には出会えませんが、見えてくる原因の第一はやはり貧困。お金がないから対人関係を断っていく。交通費や香典がないから友人の葬式にも行けないという感じです。かつてはハイクラスな生活をしていた人でも、人間関係がこじれ、孤立するケースもあります。

 孤立死した男性は特に65~74歳に集中し痩せた状態で見つかります。原因は料理をせず、酒とつまみで満腹にする傾向があります。女性もお菓子などを食べて栄養失調で痩せた方が多く年代はばらつきます。だから私は講演会などに呼ばれたら「孤立死が嫌なら肉を食べ、栄養をつけよう」と薦めています。

 孤立死も介護事故もタブー視されています。誰もやらないからこそ研究を続けたい。また、国も、取り組まねばならないことだと考えます。私は、常に現場を、現状を見ていたいです。

[経歴]
大阪府堺市出身。佛教大学社会学部社会福祉学科卒業、立命館大学大学院社会学研究科博士後期課程満期退学。
特別養護老人ホームで介護職員・生活相談員、訪問介護事業所でホームヘルパーとして勤務。
2017年4月より現職。専門は老人福祉論。

(佛大通信2018年4月号より)

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