社会人が小学校の先生を目指すにあたり知っておきたい基礎知識
社会人になって改めて、小学…
「学びのサプリ」
社会学部 現代社会学科 准教授 大束 貢生(おおつか たかお)
男子はスポーツ、女子は手芸 それは誰が決めたこと?
子どもの頃、私はスポーツに関心が持てませんでした。プレイはもちろん、観戦、テレビのスポーツ系アニメや特撮モノにも興味なし。男の子と外で遊ぶより、女の子とお手玉や手芸に興じていたい。料理や園芸も大好きな男の子でした。
私自身は自分を「変わっている」とは微塵も思っていませんでしたが、周囲は「変わった男の子」ととらえていました。男子=スポーツとの関わりを持つもの、という概念を多くが持っていたからでしょう。しかも私は長男だったため、息子とのキャッチボールを夢見ていた父は野球を強制します。当然、上達するはずもなく、その様子を見てまた父が怒るということを繰り返すうち、野球だけでなくスポーツ全般に苦手意識を持つようになってしまいました。
運動ぎらいで物静かな私は、学校でいじめの標的になりました。「オカマ」と呼ばれることもありました。そんな息子に対して、父は「男のくせにメソメソするな」とイラつきました。担任からは「もっと運動をして逞しくなろう」という内容のイラスト付き年賀状が送られて来る始末。男子だから運動が得意、または好きであるべきとの決めつけはなぜ起こるのか。当時の私には理解ができず、憂鬱な日々を送っていました。
やがて男であることを意識 男らしさとの対峙
そんな私も、中学生になると「男」であることを意識するようになり、「男らしく」あるためにスポーツを始めます。「好きこそ物の上手なれ」という諺がありますが、私の場合は真反対。「せねばならない」で上達するわけがなく、それがまたジレンマになっていきました。
父は相変わらず。私はスポーツが苦手な反面、勉強は得意だったのですが、「勉強ばかりしているからダメなんだ。大学進学なんてしなくても良いから、経営する工場を継ぐにふさわしい男になってほしい」、その一点張りでした。大学は哲学科を選んだのですが、それを聞いた父はなぜか大喜び。哲学ではなく“鉄学”だと思い込んだからでした。笑い話のような本当の話です。
大学生になった私は、「男らしくない」自分を隠したまま、人権問題のグループや女性運動のグループに参加しました。男性運動の存在も知ります。そこで「男だからってスポーツができなくても良いんだよ」というメッセージを知ります。幼い頃からわだかまり続けてきた「男らしくない自分」がようやく受け止められた瞬間でした。
男らしさ、女らしさ、筋肉、スポーツ万能はコスプレみたいなもの。脱ぎ捨てれば、生身の人間が現れます。その素の状態こそが大事だと思うようになりました。けれども、学べば学ぶほど、私だけでなく多くの男性が深刻な問題を抱えていることがわかってきたのです。
実は深刻な男性問題 抱え込みがちな、男たち
「女性はこうあるべき」と性別を押し付けられたり、性差別を受けた女性たちは女性運動(ウーマンリブ)を提起。様々な面で力をつけつつあるように思います。にもかかわらず、日本では女性経営者の数が少ないし、世界の国会議員が参加する列国議会同盟の発表によると、2016年における各国議会の女性進出における日本の順位は193カ国中、163位。前年からさらに順位を落としている有様ではありますが…。
一方、経済力や権力は男性に集中しているように見えますが、例えば仕事がない、お金が充分に稼げないといった、いわゆる「男らしさ」を獲得できない男性への風当たりは、女性へのそれに比べるとはるかに厳しいものがあります。専業主婦、死語になりつつあるかもしれませんが家事手伝いといった便利な立ち位置は、男性には認められにくいのが現状です。
私も含めてですが、だから男たちは「らしさ」を証明し、自分の立ち位置を確保するため、時に“やりすぎ”ます。一人で悩みを抱え込み、発散できず、鬱になることも。かく言う私も「男らしさ」を獲得するため、ラグビーに邁進するあまり、膝の後十字靱帯を損傷。昨年再建手術を受けました。再び走れるように、リハビリを続けています。
意外に根深い男性問題の認知度は高くありませんが、男女共同参画社会を実現させるためにも避けては通れません。すべての人が自由に生きるため、みんなで考えていきたいと私は思っています。
[経歴]
大阪府寝屋川市出身。佛教大学大学院博士課程社会学・社会福祉学研究科社会学専攻単位取得満期退学。日本の男性運動・メンズムーブメントに関わり、大阪に設立された「メンズセンター(Men’s Center Japan)」運営委員長を務める。専門はジェンダー論、マイノリティ論、ボランティア論。日本社会学会、日本ジェンダー学会などに所属。現在、寝屋川市スポーツ推進委員を務め、新しいスポーツである「カローリング」を広める活動も行っている。
(佛大通信2018年1月号より)