通信教育クロストーク

2017年12月22日
関谷龍子研究室(公共政策学科)

「学びのサプリ」
社会学部 公共政策学科 准教授 関谷 龍子(せきや るね)


未知の世界、異文化に憧れて地域調査の面白さに開眼

 関東近郊に生まれ育った私は、農村の風景に憧れていて、柳田國男氏の著書をよく読んでいました。そのことから大学入学後、地域調査を行うサークルに入りました。
 グループを作って農山村地域に行き、話を聞いて、成果をまとめるのですが、私が主に調べていたのは集落や村の組織や人間関係について。例えば、本家という支配的な権力を持つ存在があり、そこに分家がつながって一族を作っている、いわば縦の関係性は東北地方などに多くみられます。一方、従兄弟だとか、女性を嫁にもらうことで結ばれた縁戚関係のような、いわば横の関係性が見られるのは主に西日本、といったような、自分の生活知識にはなかった事象に興味を惹かれたのです。
 サークルの調査では、初回は先輩が同行してくれるのですが、2回目からは一人で行かねばなりません。見知らぬ家を、しかもアポもなしに訪ねるなんて、もちろん初めて。インターホンを前に、それこそ心臓が口から飛び出る心地を味わったことを思い出します。
 調査にも慣れてきた頃。疑問があって、同じ家に何度か伺った時、そこのご主人が「大学生って、みんな遊んでばかりで後から単位単位って騒いでいるものだと思っていた。君たちのように一生懸命勉強している学生もいるんだね」と褒めてくださった。当時は大学進学率がそれほど高くなかったので、村の人は大学生が珍しかったのでしょうが、以降も励みにした一言です。 

担当教授の聞き取りテクに心酔 地域の文化にもますます魅かれた

 過疎化に悩む農村は活性化を模索しています。さらに“心の過疎化”というか、人間関係の空洞化は都市部でも深刻な問題です。例えばそのような問題がおこる理由、課題について考察するためにはもっと地域調査を続けたいと考えるようになりました。そんな時、知人から大学院進学を勧められました。大学院の入試で初めて訪れた京都に、その後も住み続けることになるとはその時は思いもしませんでした。
 院生の時、当時は「社会調査実習」という科目があり、担当教授と農村へ調査に行きました。実は、聞き取り調査というものにはかなりのスキルが必要で、慣れていない学生などは紋切り型の質問をしがちです。相手の方も素人ですし、会話のキャッチボールが成り立たないケースがほとんど。話が弾んで思わぬ内容が聞けた、なんてことは滅多にないのが普通です。
 ところが、当然と言えば当然ですが、その教授の聞き取り方が本当に素晴らしかった。資料はすべて頭に入っていて、相手の答えに対して、二の矢三の矢を次々繰り出され、興味深い話を引き出していかれる。こんなフィールド・ワーカーになりたいと思いました。
 農村には見知らぬ人を受け入れる文化が昔からあります。美空ひばりの「越後獅子の唄」のように、旅回りをしながら芸を門付けする者も昔は多くいましたし、一方で寛容と蔑視とが同居しています。もちろん、けんもほろろに断られた苦い思い出もあります。都市部ではアポなしの訪問は不審者扱いが多いですから、それに比べると温かく受け入れてもらえたことも、その後の研究者生活を後押ししてくれた気がします。

町内会や自治会はコミュケーション力が必要

 昨年から、京都市北区役所が主催する学区(元学区)のビジョンを作るプロジェクトにゼミが参加しています。担当したのは、北区内でも歴史ある待鳳学区。ワークショップを開き、どんな町内会にしたいか、どんなことができるかなどについてまとめ、2017年3月に「まちづくりビジョン」と題したリーフレットが完成しました。
 町内会や自治会は、たとえば防災・防犯の観点からすると非常に大切なものですが、一方、面倒であるとか、任意にもかかわらず強制されている気がする、納入したお金の使い道が不明である、意義がわからないといった声もあがりがちです。加入率が下がり、参加する住民が減る、高齢化が進むと、地域は元気がなくなります。
 簡単には解決できませんが、やはりメリットがある、楽しい、といった魅力的な部分を打ち出し、理解を深めてもらうしかありません。まずは挨拶、会話。つまりコミュニケーション能力です。ぜひ大学生活で磨いてほしいと思います。

[経歴]
1990年、佛教大学大学院社会学研究科博士課程満期退学。
1993年、佛教大学非常勤講師。
2001年、佛教大学社会学部専任講師。
2009年より現職。専門は、地域社会学、社会調査論。ファーストネームはフランスの哲学者、ルネ・デカルトに因む。

(佛大通信2017年10月号より)

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