通信教育クロストーク

2018年01月10日
愛されて46年。人が集まる理由は「自然体であること」

KYOTO TIME TRAVEL
伝統をつなぐ・未来をつくる・京都をめぐる

叡山電鉄の修学院駅を降りて、線路沿いに歩いてすぐ。Beer & Wine Bar akoshan(アコシャン)は、1971年に開業し、今年46周年を迎える、地元に愛される店だ。教育学部教育学科の松戸宏予先生も、ここに長く通う常連さん。オーナーの倉内洋子さんに、店に紡がれる歴史について伺った。

倉内 洋子(くらうち ようこ)
Beer & Wine Bar akoshanオーナー。音楽のジャンルは問わず、様々な音楽をこよなく愛している。ときにはランニングの会や、地域を盛り立てるイベントにも参加したりと活動域が広い。ヨーコママとして、全国のakoshanファンから慕われている。

松戸 宏予(まつど ひろよ)
教育学部教育学科准教授。筑波大学大学院図書館情報メディア研究科博士課程後期修了。博士(図書館情報学)。専門分野は学校図書館学、図書館情報学、教育学。研究テーマは、公立の小学校・中学校に在籍する特別なニーズをもつ児童生徒へ学校図書館が支援できること。

ゴトゴトと叡山電鉄の電車が走る音がBGMのように心地よい、アコシャンの店内。決して便利とはいえないこの場所に店を開業した理由と、店名「アコシャン」の由来とは。

時代の流れとともに

松戸:いつもお世話になっています。いつ来てもホッとするお店なのですが、アコシャンを創業されたきっかけは何だったのですか。

倉内:この場所に引っ越してきたのは、私が中学3年生の頃でした。その当時、うちは学生の下宿で生計を立てていたんです。6人いた下宿生が常に友だちを連れて来たりして。学生から、お姉さんと呼ばれるような年齢になった頃には、週末ともなると、いつも宴会となり、「これはいかん。お店をつくろう!」ということで、店を始めることにしました。若気の至りで、怖いもの知らずだったのですね。母に相談したら、何回も銀行へ通ってくれて融資もしてもらえるようになったんです。

松戸:最初は喫茶店だったのですね。

倉内:そうです。昼の12時から夜の12時まで営業していたので、夜はお酒を飲むことになるのですが、私も若かったから、お客さんと話し込んで朝までになったりして起きられないわけですよ。それで、母が昼間は店をしてくれるようになって。当時は、この辺にも学生さんがいっぱいいたから忙しくて、本当に座れないぐらいの状態でした。「ええ加減、学校へ行ったら?」と、言っていましたね。

松戸:昼間ですよね。

倉内:その頃の学生さんは、よく喫茶店にたむろしていたものです。

松戸:今のようなビア&ワインバーになったのはいつからですか。

倉内:それが思い出せないんだけど、徐々にです。学生さんの気質も変わっていき喫茶店にも来なくなったり、下宿生もあまりいなくなってきたから。アルバイトしても、昔の学生はそのお金でよく飲みに行っていたけど、今はお酒を飲む子も少なくなってきました。

松戸:「アコシャン」っていう店名は、どうしてつけたのかなと、いつも思っていたのですが。

倉内:5歳下の妹と2人で考えていて、母がアキコさんなので、アのつく名前にしようと。昔は分厚い電話帳に電話番号が載っていて、アイウエオ順で一番上に載るから。なんとなく響きがいいかなとも、思いましたね。

松戸:これで謎が解けました。

創業から46年。学生時代に足繁く通っていた人が今も常連だったり、また常連同士で仲良くなったり。アコシャンは、いわば一つのコミュニティ。その吸引力の秘密とは

店を続けるエネルギーの源はお客さま

松戸:私が、この店に初めて来たのは2011年6月。その前年に京都に来たばかりでした。知り合いの弟さんが京都で仕事をしており、その方に連れていってもらった場所が、この店だったのです。私は走ることが趣味なので、その人が「亀ラン」に入っているからということで紹介してもらって。

倉内:「亀ラン」は、この店でチームを作ろうということで始めたランニングチームの名前です。

松戸:正式名称は「フライングタートル」ですが、通称「亀ラン」ですね。日曜の「亀ラン」には洋子さんも参加していたから親しくなって、それで、いつの間にか、週1回か月3回かの頻度でお店へ行くようになっていました。なぜ、そんなに惹かれるのかというと、「おかえり」って言ってくれるようなお店は他にはないから。誰に対しても親身になって話してくれる。この店の魅力というのは、誰でも受け入れてくれるところだと思う。

倉内:ふふふ、そんなこともないんですよ(笑)。

松戸:洋子さんが守ってくれるから、頼っちゃうんですよね。46年、続けて来られたエネルギーの源は何ですか?

倉内:いつの間にか46年経っていて、自分でも、びっくりです。あっという間といえばあっという間だし、改めて考えると、色んなこともありました。でも、やっぱりエネルギーの源は、色んな人が来てくれて、色んな人の人生も垣間見て、そんな人たちとお話しすることかと思います。それと忌野清志郎の歌ですね(笑)。

松戸:洋子さんとお客さんとの関係が縦のつながりだとすると、お客さん同士のつながりは横のつながり。私は木曜に来ることが多かったので、木曜に来る人の顔ぶれがだいたい決まっていて、その人たちが気さくに話かけてくれて、そこからポロッと飛び出る人生のエピソードがあったり。めったに会うわけじゃないけれど、会うと「やぁ」というような関係です。

倉内:うちの店は、一見さんがめったに来ないし、お客さんも自分一人で来る店という感じです。ここに来たら、誰か知り合いがいるから。さっきまで職場や学生の飲み会があったけれど、最後にちょっと寄ってくれるみたいな。だから、あまり友だちは連れて来られないですね。

松戸:イベントをするようになったきっかけも、教えてください。

倉内:確か、30周年の前だったから、15年ぐらい前からかな。娘が嫁ぐので使わないから、ピアノをここに置いたら、ピアノを弾く人がいて、それからですね。

松戸:3年前にボサノバのライブに来て、すごくよかった。アンコールも好きな曲をリクエストして歌ってもらったこともありました。

倉内:私も、よくわからないけれど、次から次へとミュージシャンが誰かを連れて来られます。そうしたら、次にうちでライブしたいとメールが直接来たり…。全国ツアーをするミュージシャンから、関西のスケジュールを組む中で、「この日はどうですか」と訊ねられることも、割とあります。

最近では60歳前後のお客さんが多くなったそうだが、常連は年代も違えば、当然、職業も、趣味も、価値観も異なる。それでも、一つの空間で楽しく時間を分かち合う理由とは。

ありのままに、自然体で

松戸:今後は、どんな場所でありたいですか。

倉内:今までも自然に、こうしよう、ああしようと気負ったことは考えたこともなく、ありのままでしたから、これからもありのままです。

松戸:ありのままで、結果として文化を発信していますよね。

倉内:そうですね。ここでは政治の話も野球の話もタブーではないし。支離滅裂な感じの情報ですけれど、フェイスブックにもいろいろと載せています。いつもお客さんに情報をもらったり、また、私からも発信しています。

松戸:毎年12月には、「一乗寺the Day of Pleasure」にも参加していますね。

倉内:この近くの東大路通沿いに「Norwegianwood(ノルウェイジャンウッド)」という小さなバーがあって、そこの30代の店長から「西院には音楽ベースがあって、一乗寺もそんなふうにしたい」と言われて参加しました。うちは一番北に位置しますが、その時には若い人も訪れてくれて、楽しいフェスです。

松戸:自然のままでということですが、洋子さんの中には平和を祈願する気持ちがずっとあるのだと思う。入口に飾ってあった“I hope peace”ですよね。それが、このお店の根底にもあるものだと、私は思っています。

倉内:きっと、それは、誰にでもあるものでしょう。平和を願わない人なんていないですし。日常の生き方として、そう思っています。

松戸:夜行バスに乗って、東京へライブに行ったりね。洋子さんのそういう生き方に、私は刺激を受けています。これからもよろしくお願いします。

(佛大通信2017年10月号より)

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