社会人が小学校の先生を目指すにあたり知っておきたい基礎知識
社会人になって改めて、小学…
グプタ式唐草
─インドに生まれたエネルギーのかたち─
歴史学部歴史文化学科 安藤 佳香
古代インドで考えられた万物を生み出す蓮華の創造力は、グプタ朝(320~6世紀半ば)になって新たなかたちとして表現されるようになりました。その始まりは蓮池の水中にあったようです。創造の華・蓮華を生み出す元になる原エネルギーが水中に存在し、そのエネルギーが凝縮して蓮華が生まれ、蓮華から尊きもの、聖なるものが誕生していくという奇跡のプロセスが発想されたのです。それらの形象をよく見ると、最小単位の瘤のような形、瘤が少し伸びた形、さらに生長したいわゆる蕨手形(わらびてがた)が多数集合していることがわかります。多くの単位が集まってエネルギーの塊りを形成しつつ、それぞれの単位が自由に動いているのです。もちろん私達が水中を探してもこのようなものは見つかりません。まさに見えない世界の表現ですね。
グプタ時代に始まったこの形象は広くアジアに流伝し、7世紀末ころには日本にも伝わっていました。これに私はグプタ式唐草という仮称を付けました。唐草とは、枯れたかにみえても春になれば必ず芽吹きを繰り返す、植物のもつ不滅の生命力を表現した文様です。エジプトやギリシャに発する唐草は古くからよく知られていますが、実はインド生まれの唐草が存在していたのです。この唐草は中国・唐代になって、浄土に咲くといわれる宝相華(ほうそうげ)成立の母胎となりました。
下の図版は知恩院・阿弥陀浄土図ですが、画面下方には大きく蓮池が表されており、巨大な蓮の台(うてな)には往生者が生まれています。その蓮華の下方に描かれた、水中から伸びあがる無数の触手のような形象がグプタ式唐草です。周囲の現実感を伴った蓮華や荷葉のなかにあって、蠢(うごめ)く動感が際立ちます。グプタ式唐草は、光溢れる世界へ至る、聖なる命の架け橋なのです。
(佛大通信2017年7月号より)