通信教育クロストーク

2017年07月19日
漢字に触れて楽しむ新しい発見がある古都の新名所!

KYOTO TIME TRAVEL
伝統をつなぐ・未来をつくる・京都をめぐる

東山区の元・弥栄中学校跡地に昨年6月に開館した『漢検 漢字博物館・図書館(愛称:漢字ミュージアム)』は、日本初、漢字の体験型施設として注目を集めている。今回は書道史が専門の長尾秀則先生が、館長補佐の山崎信夫さんに様々な角度から見る漢字の魅力について伺った。

 

山崎 信夫(やまざき のぶお)
大学生の時から、人を育て、社会を豊かにすることができる教育の仕事に興味を持っていたことから日本漢字能力検定協会に入社。開発企画部長などを経て、漢字博物館・図書館の館長補佐に。日本語・漢字の能力を高めることで、日本文化の発展に寄与できるような活動を行っている。

長尾 秀則(ながお ひでのり)
文学部日本文学科教授。國學院大學文学部卒業、同大学院文学研究科博士課程後期修了後、1997年佛教大学文学部日本文学科専任講師着任。2010年より現職。最近は、書道実技・書道文化の研究のみならず、学生指導にも情熱を傾け、陽明文庫・京都国立博物館見学会や、全国公募展出品の指導も行い、多数の入選・入賞者を出している。

大人から子どもまで、ゲーム感覚で楽しみながら漢字に親しめる施設として、また、漢字文化を育て、発展・継承していくための拠点として設立されたミュージアムとは?

漢字ミュージアムに込められた思い

山崎:「漢字資料館」自体は、烏丸の旧・本部の一角にありましたが、ビルのワンフロアでしたから手狭で(笑)。修学旅行生などの団体を受け入れられないような狭小施設でした。漢字検定は、漢字に対する興味や知識を持つ人の裾野を広げたい、との思いからスタートしたもの。その意味からも、多くの方々に親しんでいただける施設を開きたいと構想を温めていました。

長尾:観光名所の八坂神社前という好立地ですね。

山崎:統廃合で2011年に閉校した、弥栄中学校があった所です。京都市が実施した跡地利用のための公募型プロポーザルで選んでいただきました。計画当初は学校の一部だけでも利用できないかと思っていましたが、老朽化が激しく、安全上の配慮から建物は一新しました。

長尾:弥栄中学校は、明治初めに開校された番組小学校の一つで、昭和の新学制施行によって中学校になった歴史ある学び舎。教育熱心で地域のつながりも強いエリアに、新たな学習施設ができたことは感慨深いですね。

山崎:多くの方にとって漢字とは、「小学校の頃に覚えさせられた」「たくさん書かされた」という、“〇〇させられた”ってイメージなのではないか。私たちはそれを払拭したい。確かに漢字は、自己表現や様々な考えをアウトプットするための単なる文字なのですが、使いこなせば豊かな表現が得られたり、コミュニケーションが深まる、楽しいものでもあるのです。

長尾:中国の漢字の概念には形・音・義の三要素があります。形は、点や線、偏や旁を指します。日本の音も中国から伝わった読み方。義は意味です。日本は言葉を文字と共に大切にする文化ですが、中国は漢字そのものをたいへん大切にする文化。また、一方で日本は中国では使われていない漢字を今に伝えています。中国にはない漢字、いわゆる国字も作ってきたのです。

山崎:来館される中国の方が、日本では一つの漢字にこんなにたくさんの読み(音)があるのかと驚かれます。

長尾:大陸から伝わってきたものなのに不思議ですよね。

山崎:日本では、同じ字でも、各時代に伝わった読み方を、現代でも織り交ぜて使っているということなんですね。日本人は中国から伝わった漢字を本当に大切に使ってきたんだと思いますね。

1階は「見て聴いて触れる」展示がズラリと並ぶ。万葉仮名体験や甲骨文字占い、漢字の歴史絵巻などに、大人も子どもも夢中になって、漢字の世界に引き込まれていく。

漢字の成り立ちや進化を知ろう

長尾:エントランスにある「漢字5万字タワー」は、圧巻ですね。柱の全面に『大漢和辞典』(大修館書店)に採録された5万字が並んでいます。私も大学時代に古書店で購入しました。

山崎:来館者の方には、まずご自分の名前の漢字を見つけてくださいと案内しています。

長尾:次は、漢字の起源とされている甲骨文字コーナーですね。漢字に手をかざすと、その字の元になった甲骨文字が現れます。

山崎:漢字は書くもの、書かれる素材によって字形が変わります。トメ・ハネなど細かな部分にとらわれず、まずは、面白いものだと感じてほしいですね。

長尾:漢字のカタチに焦点を当てるのも面白いですよ。最近、私は書道教員仲間と「愛」を多様な書体で書き分け、様々な光線を当て、どう見えるかという実験的な企画をしたことがあります。

山崎:興味深いですね。字体はともかく、同じ字でも字形は千差万別。100人いたら100通りの字形があって良いと私は思います。

長尾:次は「漢字の歴史絵巻」ですか!

山崎:全長30メートルあります。前半は中国における漢字の歴史。後半は、漢字が日本でどのように使われてきたかを紹介しています。

長尾:中国で一般人が書いた資料「卜天寿『論語』写本」に興味を持ちました。卜天寿という名の12歳の少年が論語の書写を命じられていたのでしょう。紙の裏に「明日は休みだから早く帰りたい」という切実な内容の自作の詩が書かれていますよね。

山崎:西暦710年に書かれたものです。中国は文字文化が発達していたことがわかります。この頃の日本では文字を書ける人はごく一部の役人や僧侶でしたから。当時は漢字の音を借用した万葉仮名で書き表していました。ここには、自分の名前を万葉仮名に変換できるスタンプがありますよ。受付でお渡しした体験シートを使って遊ぶ仕組みになっています。平仮名やカタカナの元になった字に変換できるスタンプもあり、双方微妙に異なります。

長尾:自分の名前じゃないみたいです(笑)。

2階は、身体を動かして、漢字の仕組みや特徴を知ることができる「遊び楽しみ学べる」展示になっている。撮影スポットもあるので、カメラやスマホで記念写真を撮ろう。

漢字って、すごく面白い!

長尾:2階には20以上の体験型展示があるということですが、アイデアはどこから?

山崎:スタッフはもちろん、外部のブレインなどにも依頼し、初めは40近いプランを出し、そこから削る形で着地させました。どこからスタートしても良い自由動線になっています。

長尾:部首の組み合わせを作っていくタッチパネルかるたですね。お題の部首に合うカードを探して、より多くの漢字をパネル上で成立させた者が勝ちなんですね。思った以上にテンションが上がります!

山崎:そんなふうに漢字に親しんでもらうのが、この場所の目的なのです。

長尾:その策略にすっかりはまってしまいましたが、そもそもここはどの年齢層をターゲットにされているのですか?

山崎:小学4年生以上を対象にしていますので、展示物にはすべてルビをふっています。大人の方も楽しんでいただいています。

長尾:漢字は人が意思を伝えるためのものですが、この施設がそれをさらに人々に広く伝えようとする大きな視点で造られていることに感銘を覚えます。

(佛大通信2017年6月号より)

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