社会人が小学校の先生を目指すにあたり知っておきたい基礎知識
社会人になって改めて、小学…
KYOTO TIME TRAVEL
伝統をつなぐ・未来をつくる・京都をめぐる
京都の繁華街・木屋町通を四条通から北に向かって歩くと、古色を帯びた洋風の建物に出会う。元・立誠小学校だ。ここで映画にかかわるプロジェクトやワークショップを展開する立誠シネマプロジェクトの田中誠一さんを、社会福祉学部の岡﨑祐司先生が訪ねた。
田中 誠一(たなか せいいち)
立誠シネマプロジェクト、シネマカレッジ京都運営。大学在学中、映画研究会において自主映画製作に取り組む。2009年、柴田剛監督作品『堀川中立売』製作の参加を契機に、シマフィルム京都オフィス設立にかかわる。「学生の頃からやっていることは変わらない。延長線上に今がある」。
岡﨑 祐司(おかざき ゆうじ)
社会福祉学部社会福祉学科教授。専門分野は、福祉医療政策論、地域福祉論。新自由主義の社会的影響とそれに対抗する社会福祉政策の構想について、地域再生の探求にかかわる地域福祉のあり方、地方自治体の課題について、などをテーマに研究。『現代福祉社会論』(高菅出版、2005年)など著書多数。
元・立誠小学校がたたずむ地で、1897(明治30)年、最初の映画投影機とされるシネマトグラフが日本で初めて投影された。日本映画原点の地で映画文化を継ぐことの意味とは。
❖ここでなら、やりたいことができる❖
岡﨑:立誠シネマプロジェクトがスタートしたのは2013年でしたか。
田中:まずは1年間、パイロット的に運営したあと、2014年4月から正式に立誠シネマプロジェクトの常設施設になりました。
岡﨑:ここは、小学校が建つ以前は京都電燈という会社(現・関西電力)があり、日本初の映画の試写実験が成功した場所だそうですね。元・立誠小学校の卒業生にも、俳優や監督など映画や芝居にかかわる方が多い。そんな場所をプロジェクトの場に選ばれたのには、やはりこだわりが?
田中:こだわりという意味では、むしろ京都の人たちが、映画という文化に対して思い入れが強いのだと思います。この小学校の古い建物を残すに当たって、映画発祥の地という面を浮かび上がらせた。この場所で、映画に携わる僕たちが活動することに意味があるとしたら、わざわざ足を運んで映画を観に行く場をつくったということかもしれません。
岡﨑:わざわざ足を運んで?
田中:はい。実は映画に対する危機感があって。日本人は平均すると一人あたり年に1度ぐらいしか映画館に足を運ばないそうです。たとえば韓国では年4~5回。この違いは、映画に対する文化的重要度の違いそのもので、日本人は、わざわざお金を払って、無い時間をつくってまで映画を観に行こうという人が少ないのですね。
岡﨑:それではメジャーな作品ばかりに観客が流れていってしまう。オリジナルな企画性のある作品を上映している映画館から、ますます足が遠のく一方ですね。
田中:ですから、まずは足を運んでほしい。そのための場所づくり、間口を広げるひとつの場所なのです。そしてこの場所には、そんなチカラがあると思います。ここでなら、僕たちがやりたいことができるのではないか、そう思ったのが最初のきっかけでした。
岡﨑:京都には映画文化に依拠する土壌があるのですね。ところで、立誠シネマプロジェクトの母体であるシマフィルムさんでは「堀川中立売」「天使突抜六丁目」など京都を舞台にした映画作品があって、京都人の私にはとても魅力的なのですが、京都に対する想いというのは。
田中:実は「京都がいいから京都でやろう」という発想はないのです。京都にいるから、京都でできることをやろう、というスタンスです。やむを得ず(笑)というか、京都でやることが前提なので結果的に“京都”が前面に出ていますが、特別こだわっているわけではありません。
演じたい、つくりたい、手掛けたい──。映画を志す人の育成を行なうシネマカレッジ京都は、映画づくりの世界への入口でもある。ここから、新しい映画の形を発信する。
❖映画の世界への入口がここにある❖
岡﨑:シネマカレッジ京都というスクールも運営されています。こちらには「俳優」「脚本」「配給宣伝」の3つのコースがありますが、ここではどんな人たちが学んでいるのですか?田中:映画業界で働きたい人から、仕事は別に持ちながら映画にもかかわってみたいという人まで、さまざまです。たとえば京都には映画を学べる大学がいくつかあります。そこでは卒業後を見据えてカリキュラムが組まれていますが、ここのカレッジは長期のものではありません。どちらかというと、期間限定の単発のものが多いですね。講座にもよりますが、1日か2日だけのものや、週1回で3月間という講座もあります。「試しにやってみようかな」という人には、いきなり毎週1回3カ月というのはキツイですから、まずは1回だけの講座を受講してみるという感じです。
岡﨑:学生が多いのですか?
田中:社会人の方も多いです。いろんな人が来られます。ふつうに暮らしていると、映画の世界ってどうやって入ればいいかわからない。そういう人たちへの間口のひとつというか、選択肢のひとつですね。
岡﨑:確かに、俳優や脚本ならまだしも、配給や宣伝のやり方なんてわからない(笑)。
田中:自分たちで映画をつくったり、他所でつくられた作品を自分たちで上映したり、今の時代は自分たちで何でもできるんですね。実際にやる人も多い。ただ、興味はあるけどやり方がわからないという人はもっとたくさんいて、そういう人たちに向けて配給や宣伝の方法を教えるのです。カレッジ修了後の選択はそれぞれ。自分が何をやりたいかです。ただ、ここから新たな創造の種が芽生えるといいですね。
岡﨑:入口がここにあって、そこから先はそれぞれに発展していくというわけですね。
大手シネコンをはじめ他ではなかなか観られないような珠玉の名作が連日上映されている。その編成のほとんどを担う田中さんは、ある想いを胸に作品を選び、特集企画を立てている。
❖知らないことを知る、ということ❖
田中:上映作品は作品のバランスが偏らないようにとは思っていますし、もちろん個人的な好みだけで選んでいるわけではありません。ただ、とくに若い人たちに観てほしい、観に来てほしい作品をと思うと、どうしてもある程度の偏りは生まれてしまうかもしれませんね。
岡﨑:ドキュメンタリー作品などは、若い人たちはあまり観ないのかもしれませんね。
田中:そうです。若い世代には、映画に撮られたテーマが、違う世界の話ではなく、自分たちが住んでいる世界と地続きだということを知らない人が多い。それが悲しいです。歴史的事件のただ中にも自分たちと同じ一個人がいることを観て、知ることが大切なのではないかと思うのです。それは観ないとわからない。
岡﨑:どう受け止めればいいかわからないことがあって、困惑することも、ときには必要かもしれません。何かすっきりしない、「すぐにはわからない」ことを知ることといいますか。
田中:その話と関連するかどうか…。カレッジで学ぶ人たちを見ていると、柔軟にアウトプットできない人が多い。インプットするものが少ないからで、もっといろいろなものを見たり読んだりしてほしいのですが、そういうことを“まわり道”だと思っているんです。自分の関心のあるものにしか目を向けないから、ただ知らないだけなのですが。関心がないことにも目を向けて勉強して、自分の中に蓄積していかないといけないのですけどね。
岡﨑:“好き”のレベルがまだ浅いのでしょう。好きなことや興味の対象を“たどる”ということをしてほしいですね。たとえば本を読んだら、著者のプロフィールを読んでその人について知る。その人について、たどってみる。映画でも本でも、そうすることで深まっていくのではないかな。
田中:いろいろ吸収して自分の世界観をつくっていく、自分のものさしをつくっていけるのは、19、20歳の頃。また、世代を問わず、メジャーではない映画も意識してぜひ観てほしいものです。
岡﨑:本当にそうですね。今日はありがとうございました。