通信教育クロストーク

2017年05月08日
横山壽一研究室(社会福祉学科)

「学びのサプリ」
社会福祉学部 社会福祉学科 教授 横山 壽一(よこやま としかず)


イギリスの社会保障を原点とした私の専門研究

 私が大学に入学した1970年は、封鎖が解除された直後で騒然としていました。先輩たちは講義がなかったため研究会を作り自主的に勉強していて、入学時にはたくさん研究会がありました。私はそのひとつ「社会科学研究会」に入り、最初に高島善哉『社会科学入門』を読み、「社会科学的なものの見方とは何か」について多くを学び刺激を受けました。社会科学の面白さを入学直後に学べたことが、その後の大きな力になりました。研究会では、古典や専門書を精力的に読み議論を重ねてきました。この時の経験が研究者をめざす契機になったように思います。
 3・4回生では「社会政策論」ゼミで貧困問題と社会政策を学びました。その頃、新しい貧困が問題となり、賃上げだけでは生活は向上しないとして制度改善を掲げた国民春闘が始まり、年金や医療など社会保障が時代の焦点となってきました。私は、賃金と社会保障を一体的に捉える研究の必要を感じ、進学を決意しました。
 大学院では、労働力再生産の現代的形態と貧困について取り組み、修士論文では19世紀イギリスで低所得者の間で爆発的に普及した営利の簡易生命保険を取り上げ、救貧法と民間保険と貧困の関連について分析しました。この時、指針となったのがフリードリヒ・エンゲルス『イギリスにおける労働者階級の状態』(新日本出版社)でした。労働者の労働と生活をつぶさに分析し、貧困のなかに発達の契機を見出すこの本に魅了されて繰り返し読み、参考にしました。当時、日本では民間企業が医療や福祉に参入し始め、次第に拡大していきましたので、これらを社会保障の市場化・営利化として捉え、分析を続け現在に至っています。

理論研究と実態分析を結びつけ社会保障政策のあり方を提起する

 私は学生結婚をしたので修士論文を書いた頃は、子どもを保育園に送り迎えをしながら大学院へ通う日々でした。その時、保育料の値上げ問題が起こり、父母会の会長をしていたことから反対運動に巻き込まれて気が付いたら全市の委員長を引き受けていました。研究と並行して、誰もが預けられる保育所づくりをめざして社会保障の現実と向き合ったことは研究にとっても貴重な経験となりましたが、正直大変でした。
 金沢大学に就職してからは、現場従事者と研究者・院生等で運営する「医療・福祉問題研究会」の活動に携わり、25年ほど事務局長を務めてきました。この研究会で20 年近く過疎・高齢化の進む石川県能登地方の医療・福祉の実態調査に取り組み、住民と対話しながら政策提言を行ってきました。現在、国民医療を良くするという理念を掲げる公益財団法人日本医療総合研究所の副理事長として、政策分析や調査活動に取り組んでいます。
 社会保障一つで人生そのものが変わることもあるのですから、研究者には、社会保障の内容が国民生活に応えられているか、たえず点検し改善のための課題を提起していく責任があります。理論研究と実態分析を結びつけ、社会保障政策について問題提起するというのが、私が続けてきた研究スタイルです。現から論文の組み立て方、章・節のつけ方まで厳しく指導していただきました。この時に身につけた知識・ノウハウが、学生の論文指導に大いに役立っています。
 学びを自分のものにするには、自分が「これだ」と思う文献を見つけ繰り返し読むことです。現実感覚を研ぎ澄ましてリアルな実態に取り組み、文献から学んだ理論でその背景や要因を分析していく力をつけていくことが求められます。私にとっては、先ほど触れたエンゲルス『イギリスにおける労働者階級の状態』が導きの糸でした。今でも読むたびに新しい発見があります。
 講義では、現実感覚を磨くために新聞記事を活用しています。毎回記事を紹介して解説しますが、学生たちにも記事を集めレポートを書いてもらっています。新聞記事には、学びのヒントやテーマがたくさんあります。アンテナを張り巡らしておくことで、ひとつの記事でも違った読み方・学び方ができるようになります。今は、インターネットなど情報ソースが多種多様にあり、新聞を読む学生も減っていますが、誰もができる学びのサプリとして推奨します。

[経歴]
1951 年生まれ。鳥取県出身。
岡山大学法文学部経済学科、立命館大学大学院経済学研究科博士後期課程(満期退学)を経て、金沢大学経済学部に赴任。社会保障論を担当。金沢大学時代に、学長補佐、経済学部長、地域創造学類長、地域連携推進センター長、日本医療経済学会会長等を歴任。現在、日本医療総合研究所副理事長、2016 年度に社会福祉学部に赴任。
趣味はスポーツ、野球は現役。 

(佛大通信2017年5月号より)

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