社会人が小学校の先生を目指すにあたり知っておきたい基礎知識
社会人になって改めて、小学…
「研究室訪問」
文学部 英米学科 講師 田中 和也(たなか かずや)
英語を学ぶ中で出会った数多くの人たちこそが私の大切な宝物
私は小学校の頃から英語の塾に通っていたこともあり、中学、高校でも英語が好きでした。特に高校の英語の先生が、英文法をわかりやすくかみ砕いて教えてくださったことで、文法や構造に大きく興味をもちました。
大学は文学部に入学。英米文学を専攻し、英語の教師をめざして勉強していました。そこでも私に大きく影響を与えた恩師との出会いがありました。なかでも認知言語学を研究されていた先生の指導でモノの見方を教わったことは、英文学を研究する今日にも生きています。たとえば、「お湯が沸いている」という表現は、日本の日常会話で、感覚的に「やかんが沸いている」と表現されますが、英語でもThe kettle is boiling. と感覚面で同じなのです。このように、英語と日本語との共通点や差異に目配りして(他の外国語を学ぶ時も)、文章の構造を理解することは、私は大切なことだと考えています。
また、大学時代の数多くの友達との出会いもかけがえのない財産です。日本に暮らす外国の人、障がいのある人、性に悩む人など…世間ではマイノリティと言われますが、彼らの様々なライフスタイルやモノの考え方、意見など、環境の違う人々との交流が、しっかりと話を聞き、自分の身に相手を引き付けて意見を交わす力を私にもたらせてくれました。学生時代までの数々の人との出会いが、文学作品の中から多様性と普遍性を探る今日の私のバックボーンになっていると考えます。
英文学に魅せられコンラッドを主に文学研究を続ける毎日
現在まで、私は英国で活躍した文学作家のジョウゼフ・コンラッド(1857~1924年)を主に、英米文学を研究しています。彼は、ポーランド出身で英国に移り活動した作家で、ポーランド語やフランス語など多言語を使う小説家でしたが、彼の英語には独特のなまりがあり、それが彼独自の文体を生み出す基となっています。『闇の奥』(1899年)が有名で、フランシス・コッポラ監督の映画『地獄の黙示録』の原作と言えば、ご存知の方も多いのではないでしょうか。米国の作家のヘミングウェイやフォークナー、フィッツジェラルドも彼のファンでした。
コンラッドは、元々は船乗りでした。当時の船乗りは多民族の集団なので、当然、言葉が通じず、諍いも起こります。それを防ぐために船上では「縦社会」でした。しかし、嵐の中では船が沈まないように一致団結して、「横」のつながりが出てくるのです。そうした船員間の信頼関係や倫理の在り方が、社会的・歴史的背景を踏まえつつ読めるのが、コンラッドの魅力のうちの一つです。また、多様な船員間の絆に面白みを感じるのも、大学時代の出会いのおかげだと思います。ただ、このように作品を精密に味わうのには、原文から筋と流れを掴み、正確に読んで引用などを分析し、理解を深めることが不可欠です。
あくまで私見ですが、英文学には、多くの他者が登場し、社会的背景が見えて、揉めながらも地に足を着けてどう生きるかという実直さを感じます。それと比べると、仏文学には、恋愛話や主人公の死などという、個人のストーリーが多いと私は感じています。そういう部分で英文学が好みで、とりわけコンラッドに魅せられているのです。
マーカーやメモ帳を上手に使う文学の勉強はあくまでもアナログが基本
英米文学を学んできた私なりの勉強法をご紹介したいと思います。まず、その一つはマーカーを使って本を読むことです。時間と場所はブルー、面白い部分はピンク、流れはオレンジというように、文章を内容ごとに色で分類します。こうすることで、視覚的に目に飛び込んできますし、話が時間通りに進まず、時が戻ることの多い作品を読むときには見返せば一目でわかるのです。私は、辞書にもマーカーを引くことがあります。作家によっては同じ言葉を頻繁に使うので、原文を読む時に便利です。
それと、二つ目は、メモを欠かさずに取ることと、メモの取り先を工夫することです。「取り先」については、ペーパーバックの空白にページ番号を書き込み合って相互参照を作ることが多いです。また、大学ノートに考えをまとめたり、小さいメモ帳にネタを書き出して調べたりもします。付箋も有効なツールだと思います。私の勉強法は、きわめてアナログです。そういう意味では、本の選び方もアナログです。よく通信教育課程の学生の皆さんからテーマにする本の選び方を問われるのですが、書店や図書館で「良い」と直感で思った本を、肩の力を抜いて手にとって読むということをお勧めします。
近年、亡くなったスティーブ・ジョブズも手書きが基本で、自分の子どもにはiPadを持たせませんでした。皆さんも、独自の「メモ法」や勉強法を見つけてもらえたら幸いです。
[経歴]
福岡県出身で大阪、奈良で青少年期を過ごす。
大阪大学大学院文学研究科文化表現論専攻英米文学専門分野博士後期課程単位取得退学、大阪大学大学院文学研究科特任研究員(2010年12月~2013年2月)、近畿大学経済大学部非常勤講師(2011年4月~2015年3月)、2015年4月より現職。
(佛大通信2016年12月号より)