社会人が小学校の先生を目指すにあたり知っておきたい基礎知識
社会人になって改めて、小学…
「研究室訪問」
文学部 日本文学科 教授 加藤 邦彦(かとう くにひこ)
『中原中也全集』の編集作業その苦労から得たものは、詩の素晴らしさとの出会いです
私は、父親の仕事の関係で小学生の3年半をメキシコで過ごし、4年生の時に日本に帰国しました。高校2年生の時に、今度は父の転勤がベネズエラへ決まり、あのメキシコの仲間との別れの辛さを思い出し、私一人が日本に残りました。進学に惑い一浪したのですが、何のために大学に行くかを考えた時に、予備校の先生であり、ドフトエフスキーの研究者である芦川進一先生に熱く教わったことも、大学での学び方を有意義にしたと言えます。
大学教授として働く今日までを振り返ると、私に最もインパクトを与えた学びは、『中原中也全集』の編集に尽力したことではないかと思います。
大学院修士の頃は、中学・高校の非常勤講師で生計を立てながら中也研究をしていたのですが、そんな私に全集の制作手伝いの話がありました。受けたくても、その仕事をすると講師の仕事を辞さなければならず、大学院で勉強する時間もなくなってしまいます。大学の先生に相談すると「寝なければいいのです」。その言葉に「はっ」とし、出版社に事情を理解していただいた上で、その仕事をお受けしました。1年といわれた全集の仕事は5年の歳月を要し、ようやく完成しました。相談した先生も、昔、高校教員と全集制作の掛け持ちをされていたそうです。あの言葉で私自身に唖然としたからこそ、中也全集に真剣に向き合い、研究や編集、出版の流れなどを体験的に覚え、それが今日の財産になっています。
1日1冊の読書、大学でしっかりと学ぶことがわたしの学びです
入学して思ったことは「やるからには、特別な理由がない限り、サボらずに勉強に徹しよう」ということです。高校でも本は読んでいたものの、入学当時の私の本棚には2段程度の本。周りの読書レベルは高く、自分を改めるしかないと目標を立て、2年からは朝9時から閉門の「蛍の光」の音楽が流れるまで、大学図書館で勉強することにしました。授業の合間や放課後も図書館で自習。就活の関係で久々に大学に来た同級生たちは、キャンパスに来ても友人をみかけないが、図書館に行けば私が居るということで、名物的な存在になっていたのではないでしょうか。夏休みは、1日1冊の本を読むと決めて毎日、読書。皆さんもご存知の新潮文庫の100冊を読み続けました。大学3年次のレポートでは困難でしたが『源氏物語』を古文で通読してまとめたことで、先生にほめられたことを覚えています。
私が、このように文学に向かう原点となったのは、メキシコの生活体験から、日本はいい国と思うが「日本って何なのか?」という疑問をもったことです。現代の日本の感性を知るには、古典よりも近代文学だと思い、萩原朔太郎や中原中也などを学び、卒業論文は中也論にしました。いいなと思う詩はなぜいいのか、その感覚の正体を知りたくて、詩が日本人の感性の結晶であり、音楽的な要素がきわめて強いと感じ、私は詩の世界に魅かれていきました。
文学研究は、資料に頼らず自分の感覚で咀嚼して作品をしっかりと見つめてください
文学研究は、今の時代に調和した見方も必要であると思います。たとえば、モーニング娘。でいうなら、ユニット名は看板として残りますが、中身はモデルチェンジして最新に変わっていくものです。 文学でもそれは、同じことがいえます。ですから、目的の文学を学ぶには、先行研究にあまり引っ張られないことが大切だと考えます。分野にこだわらず、数学や天文学でもいい、自分のアンテナに引っ掛かる色々なことに好奇心をもって向き合って、浮かび上がってきたものを研究していただきたいのです。
通信教育課程の皆さんからは、参考文献を教えてほしいという言葉をよくいただくのですが、夏目漱石の研究で、それまでの先行文献を読んだとしても、それが答えではありません。仮に、その文献に自分の言葉を継ぎ足してできた論文が、果たして面白いと言えますでしょうか?作品の言葉をしっかりと読みとり、何が言いたいのかを自分自身の手でつかむのです。だから、自分にある感性のアンテナが大切なのです。私は、そうして様々な作品と向き合ってきました。
“How to”は、自分で見つけるもの。現在、私は現代詩を研究する「現代詩/詩論研究会」を、北川透氏、渡辺玄英氏と立ち上げ、『るる』という出版物を発行しています。仲間で作ったこの『るる』は、当初、『流々(るる)』と書く予定でした。文学は、つねに時代を流れているのです。
[経歴]
1974年生まれ。
早稲田大学第一文学部卒業。
早稲田大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学。博士(文学)。
早稲田大学文学部助手、梅光学院大学専任講師、同大学准教授を経て、2015年4月より現職。
(佛大通信2016年11月号より)