通信教育クロストーク

2016年09月16日
吉見憲二研究室(現代社会学科)

「研究室訪問」
社会学部 現代社会学科 講師 吉見 憲二(よしみ けんじ)


 勉強しなかった学部時代を省み、情報社会学の分野へ紆余曲折で歩んだ学びの世界

 「大学の4年間で、私は一体、何を学び身につけたのだろうか?」という学部時代に勉強しなかった反省が、私が学問を意識するようになった原点になります。そして、「このまま大学を卒業してはもったいない、もう一度きちんと学び直したい」という決意で大学院への道に進みました。いかに勉強しなかったかというエピソードとして、卒業旅行から帰国した成田空港で成績発表を見たところ「卒業不可」となっており、慌てて再試験を受けてなんとか卒業したという苦い思い出があります。既に大学院への進学は決まっていたものの、一歩間違えれば留年してしまうくらいの危うい状況でした。学部生時代は経済学部に所属しゲーム理論のゼミを専攻していましたが、大学院進学のタイミングでちょうど指導教授の先生が在外研究で不在となり大学院ゼミが開講されなかったため、自分で大学院のゼミを探さなければなりませんでした。そんな時、バイト先の飲み会で偶然隣に座った先輩から情報通信分野のゼミを薦められたことで、現在、私が専門とする分野に出会いました。

 当時はITの急激な発展の最中で、情報通信分野での学習・研究は大変面白く、刺激的なものとなりました。最終的に、博士論文を「ゲーム理論を用いたテレワークの分析」としてまとめましたが、当時の経験から今でも情報通信に関連した様々なテーマの研究に取り組んでいます。

情報コミュニケーションのプラス面とマイナス面を知ることで理想の情報社会の在り方を求める

 私の専門は、情報社会学の中でも、情報コミュニケーションを対象としたものです。具体的には、ソーシャルメディアやSNSのデータ収集・分析を行うことで内容の比較をしたり、波及効果を検証したりしています。

 学生たちには講義で伝えていることですが、ソーシャルメディアやSNSは、新しいビジネスや人間関係の維持などでポジティブな面を見せる一方で、中毒性やプライバシーといったネガティブな問題も抱えています。ニュースなどでも、こうしたプラス面とマイナス面が顕在化していることをよく目にするでしょう。しかしながら、一般的に言われているプラス面とマイナス面が果たして妥当なのかという点については良く考える必要があります。例えば、現代の学生は就職しても上司とのコミュニケーションが上手にできない、会社でも電話の応対がわからないなどと否定的なニュアンスで取り上げられることが少なからずあります。ですが、LINEやTwitterなどの新しいコミュニケーションツールは学生の方がよっぽどうまく使えており、学生視点では電話やメールといったコミュニケーションツールの方が非効率であるというように捉えることもできます。

 つまり、育った環境によって世代ごとにコミュニケーションの方法には差異があり、その点に自覚的でないと問題の本質を見失ってしまう懸念があるということです。こうした観点を踏まえた理想的な情報社会の在り方について考えるのが私の研究になります。

日々の授業で知る学生からの声が私の学びと教えの大切な資源です

 私の講義では、一方的な説明にならないように小テストや講義中の発問を通じて学生に考えさせるというスタイルを採用しています。また、少人数講義では、私が大学院時代に学んだ経験から、積極的にディスカッションを取り入れています。知識を得るだけでなく、それを自分なりの考えを元に言語化することは、テーマの理解を深めるためにとても効果的だと認識しています。こうした取り組みは学生の理解度を高めるという目的からですが、学生からの回答や質問、疑問などは今の学生の考え方を知る上で私自身の貴重な情報源にもなっています。

 過去の例では、ファイルを添付しての課題提出を指示した際に、スマートフォンしか持たない学生が手書きのレポートの写真だけを添付してきたことがありました。ここで初めて「ファイルを添付」という言葉の曖昧さに気づき、私にとって当たり前の感覚が学生には当たり前ではないことを実感しました。日々の講義の小テストやディスカッションでも、こうした気づきを得る機会は少なくなく、私自身の研究のアイディアにもつながっています。

 情報コミュニケーションといった分野に興味があり、学びたいという皆さんは、自身の感覚に拘泥せず、新しいメディアを積極的に取り入れることで現代社会の理解につなげてもらえたらと思います。

[経歴]
早稲田大学大学院国際情報通信研究科博士後期課程修了。博士(国際情報通信学)。
早稲田大学商学学術院総合研究所助手、
早稲田大学大学院国際情報通信研究科助教を経て現職。

(佛大通信2016年9月号より)

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