通信教育クロストーク

2016年03月22日
若尾典子研究室(社会福祉学科)

「研究室訪問」
社会福祉学部 社会福祉学科 教授  若尾 典子(わかお のりこ)


 政治や法律に無関心な文学少女が、男ばかりの法学部の大学生に

 現在では、憲法、とくに女性・子どもの人権研究をしている私ですが、高校時代までは、政治や法律に全く興味はありませんでした。むしろ嫌いで、時間があれば小説を読んでいました。でも、そんな自分が好きになれず、大学に行って何をするのか、もやもやしていました。受験直前に、ふと自分の生きづらさを社会的に俯瞰してみることで、自分も変われるかもしれないと思い、選択したのが法学部。誰にも相談せずに決めました。

 合格はしましたが、法学部では同級生に女性は一割弱、10人もいません。しかも、女子学生の多くは「司法試験に合格し弁護士になりたい」など職業意識が高く、そんなことを考えたこともない私は、びっくりしました。

 ただ、当時、大学は教養部制で、すぐに専門分野の勉強はしません。もちろん司法試験に取り組むような学生もいませんでした。それが私には良かったようです。クラスで政治が話題になっても、正直、私も他の学生の多くも、よくわかりません。そこで、みんなで勉強しようと、自主的に戦後史などの本を読んだりしました。自分たちでわからないことを学習しあうのが大学なのだ、と感じました。3年生から法律の勉強に入るのですが、そのとき、条文が少なく、そのぶん歴史や思想が重要になる憲法を専攻することにしました。それまで憲法専攻の女子学生がいなかったので、教員や院生に珍しがられました。

本土復帰間もない沖縄の生活で体感した日本国憲法と女性の人権

 卒業時、四大卒の女子学生に一般企業の就職はほとんどなく、受験できるのは司法試験、公務員試験、それに大学院入試くらいでした。社会への苦手意識が強かった私は、大学院に進みます。しかし大学院で待っていたのは、先輩院生との結婚です。その相手が琉球大学に赴任することになり、私も、同じ大学で非常勤講師の仕事もあり、沖縄なら民俗学でも…とノンキに沖縄に住みはじめました。間もなく子どもが生まれ、大学と家庭の両立生活が始まりました。

 大学で憲法を担当した私は、沖縄からの鋭い「問い」に直面します。平和な島の実現、日本国憲法への復帰を望んだ沖縄が、なぜ、広大な米軍事基地と新たな自衛隊配備に直面するのか、と。この問いへの答えは憲法学にはなく、自分で考えるしかありませんでした。このとき初めて、「問い」に立ち向かう憲法研究に入った気がします。

 家庭では主婦役割に漠然と疑問をもちつつも言葉にできずにいた私に、沖縄の女性たちが問います。「日本国憲法は、性役割を、どう考えているのか」と。当時の憲法学には、まったくない「問い」でした。私は、家族のなかの「個人の尊重」と「両性の平等」を規定する憲法24条の研究を始めます。また沖縄県憲法普及協議会の理事として『わたしの憲法手帳』を作成したり、講演会を開催したり、大学外にも仕事が広がりました。現在、憲法とジェンダー研究をする私の原点は、沖縄にあります。

学問の研究に不可欠なもの、それは、あらゆる物事への「問い」と、その追究

 その後、私は名古屋、広島、そして京都へと移り住みます。沖縄から問われる形で始まった私の研究も、自分の生きづらさを俯瞰したい、という最初の思いに結びつきます。それが『闇の中の女性の身体』(その後『女性の身体と人権』に改題)という本です。買売春を中心に、戦前・戦後の女性の人権を検討しました。女性が描く小説世界を憲法から俯瞰し、個人と社会の関係を浮き彫りにする試みです。

 「私の学び」とは、「問い」を「学ぶ」ことだと思います。論文を読むときも、著者がどのような「問い」をもって、この論文を書いたのかを考えることです。そうすれば、その「問い」に対し、どのように論理が展開されているのか、論文を正確に把握できます。これが「学問」(=問いを学ぶこと)です。論文作成のときも、先行研究において、どんな「問い」が設定され、どのように解明されているのかを「学び」、自分の「問い」を決めます。この「問い」の下に、あらためて先行研究を整理・紹介しつつ、論述し、結論を導きだします。だから、整理・検討する自分の文章と他の論文の文章を区別する「引用」は、論文作成の必須条件なのです。

 いま、沖縄問題や憲法問題に、多くの人々が関心をもち「問い」を提起しています。みなさんも、これらの「問い」に学び、自分の「問い」を重ねて、考えてみてほしいと思います。


 経歴
社会福祉学部社会福祉学科 教授
名古屋大学法学部法律学科卒業
名古屋大学大学院法学研究科修士課程修了
その後、日本復帰後の沖縄で1989年まで暮らす。名古屋での生活を経て、1997年より広島女子大学(現:県立広島大学)に赴任、2008年より佛教大学社会福祉学部教授。

(佛大通信2016年3月号より)

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