通信教育クロストーク

2018年09月10日
見る、さわる、体験する「地域と歩む鉄道文化拠点」

KYOTO TIME TRAVEL
伝統をつなぐ・未来をつくる・京都をめぐる

日本の鉄道の「聖地」と呼ばれる梅小路。
2016 年4 月に誕生した「京都鉄道博物館」には、蒸気機関車や扇形車庫、二条駅の旧木造駅舎などがあり、鉄道ファンならずとも一度は訪れたい施設である。
中国学科の瀬邊啓子先生が、館長の三浦英之さんに話を伺った。

京都鉄道博物館
「地域と歩む鉄道文化拠点」を基本コンセプトに、2016 年4月29 日、京都市下京区の梅小路公園に開館。大阪市の「交通科学博物館(1962 ~ 2014 年)」と日本の近代を支えた蒸気機関車や扇形車庫を備えた京都の「梅小路蒸気機関車館(1972~ 2015 年)」の2 施設を引き継ぐとともに、「見る、さわる、体験する」をテーマに、感動とひらめき、知的好奇心を生み出す博物館として、子どもから大人までの生涯学習の場となることを目指す。
 京都鉄道博物館の展示面積は2.3 万㎡。プロムナードでは、SL から新幹線まで様々な車両が出迎えてくれる。

三浦 英之(みうら ひでゆき)
京都鉄道博物館館長。1977 年、日本国有鉄道 入社。西日本旅客鉄道株式会社京都支社次長、西日本旅客鉄道株式会社 総合企画本部担当部長(日中往来促進PT)、執行役員財務部長、JR 西日本フィナンシャルマネジメント株式会社代表取締役社長を経て、2015 年、交通文化振興財団専務理事および梅小路蒸気機関車館館長に就任。

瀬邊 啓子(せべ けいこ)
文学部中国学科 准教授。
大阪大学大学院言語文化研究科言語文化学専攻博士後期課程修了。京都産業大学外国語学部特約講師を経て現職。研究テーマは、新時期文学以降の都市文学、文革期文学の創作状況。中国現代(当代)文学を読み解くことで、現在の中国がどのような社会であり、どのように形成されたのかを解き明かす。『藍天の中国・香港・台湾 映画散策』(三恵社、2010年)をはじめ著書・論文多数。

JR 山陰本線の高架線近くにある京都鉄道博物館。約120 mも続くプロムナードでは、東海道新幹線0系をはじめとする名車両たちが出迎えてくれて、瀬邊先生は早くも興奮気味である。

地域の活性化に果たす役割

瀬邊:梅小路公園のほうから来ると、最初にプロムナードの0系新幹線が外からも見えるんですね。「新幹線だ!」と思って、一目散に走り出しそうでした(笑)。もともと博物館は好きなのですけど、館内に入ってからは興味を引かれる展示がいっぱいで大興奮でした。

三浦:学芸員などがみんなで知恵を絞り出して、一つひとつの展示や企画を考えておりまして、お客様に飽きられることなく、何度も来ていただける博物館にしていきたいと思っています。鉄道ジオラマではスタッフが解説していますが、話す内容も一人ひとりが工夫したり、お客様によっては話し方を変えたりと、そのあたりも、かなりこだわっています。

瀬邊:博物館の基本コンセプトは、「地域と歩む鉄道文化拠点」ということですね。

三浦:そうです。まず、鉄道はただの移動手段ではなくて一つの「文化」であるということ。特に日本の場合は、国の発展や生活と密接に関わって、ここまで来ているのですから文化であるということですね。「地域と歩む」とは、地元の京都の人に愛される博物館になりたいということです。生涯学習の場として、地元の方にしょっちゅう来ていただきたいし、誇りに思っていただけるような博物館でありたいなと思っています。それとあわせて、地域の発展や活性化にどこまで寄与できるかも課題です。もちろん集客も地域の活性化につながりますし、地域イベントにも参加しています。これまでは、わりと人出が少ないところでしたが、京都市が梅小路公園を整備して、水族館もできて、そして私たちの博物館もできて、この地域に人が集まるようになりました。地域の小学校で出前授業をしたり、小学生に来ていただいて授業することもあります。キャラクターの「ウメテツ」君は、嵯峨美大の学生さんが考案してくれました。

瀬邊:うちの大学にも、鉄道が大好きでJR で清掃のアルバイトをしている学生がいますから、ここを学びの場として交流ができるのであれば、学生はすごく喜びそうです。

三浦:ええ、ご相談いただければと思います。学校で勉強するだけでなく、博物館にも、いろんな気づきがあることを知っていただければ、うれしいですね。

開館以来、集客は好調。特に初年度はGWに開館したこともあって、最大1日に1 万7 千人もの来館者を迎えて好調なスタートを切ったが、2 年目を迎えたいまも集客のための努力は怠らない。

リピーター客を確保するために

瀬邊:開館後は、どんなお客様が多いですか。

三浦:ファミリーが多いですね。鉄道ファンの方も、もちろん来られますが、外国の方も含めて家族連れが多いです。実は、学生は意外に少なくて、昨年9 月から今年5 月6 日まで「京都鉄道ミステリー」というイベントを開催していますが、これは若い方に来てもらうためなのです。本来の博物館の本質とは少し違うかもしれませんが、集客のために、ですね。「京都鉄道ミステリー」はナゾ解き街歩きゲームで、この博物館を一巡りしながら謎や暗号を解き、館外の京都のスポットにも謎があるので館を出て答えを探します。外に出た方がもう一回見ようと、再入館される方もいます。

瀬邊:最初はゲームに夢中になっていても、いろいろと展示物が目に入るうちに、あれも見たい、これも見たいと思い、もう一度ゆっくり見てみようということになるのですね。

三浦:博物館に1回来たら終わりではなくて、いつ来ても何かが違っていたり、発見できることが違っていれば、繰り返し来てみたいと感じていただけるのではないかと思っています。博物館は、図書館などと違って地域の人になかなか利用してもらえない側面があります。私たちはその課題を何とか乗り越えて、地域に溶け込んだ博物館になっていければと思います。

瀬邊:今日も、展示物の入れ替えのために準備が進んでいましたね。

三浦:JR 西日本の施設ですので、館内まで一部線路がつながっていて、車両を入れ替えたりして変化をつけることができます。また、現役のJR 社員が展示物を使って、自分たちの仕事を解説するワークショップ「鉄道おしごと体験」もあります。車掌や運転士などいろんな職種の人のワークショップがありますが、一番人気があるのは保線と電気。館内にレールと枕木があるので、子どもが実際に枕木のボトルを外してみたり、検査する車両に上がって見てみたり。普段、お客様とはあまり接する機会がない社員も、最初は慣れていなくて、喋り方もうまくなかったのですが、何回もするうちに、最近は慣れてきて、楽しくてしょうがないと言っています。日頃の自分の仕事ぶりを説明できるわけですからね。いわゆるES(従業員満足)の側面があるのです。お客様も、今までは駅員に聞いても教えてもらえなかったような、いろいろと細かい技術的な話もわかりやすく教えてもらえるので、そういう意味でES とCS(顧客満足)を兼ねた取り組みと言ってもいいかもしれません。

瀬邊:鉄道で本当に働いている人に、お話を聞けるのは、貴重な体験ですよね。

三浦:専門的なワークショップも、土曜と日曜を中心にいろいろと開催しています。私が担当したこともあって、そのときのテーマは「通票閉塞器」でした。「通票」って、ご存知でしょうか。タブレットとも言って、通行手形のようなものです。私は、国鉄に勤務していた時代に使っていたことがあったので、ワークショップで説明したのです。今でも一部貨物駅では使われていて、そのワークショップでも、タブレット自体を、昔に見たことがあるという人もいました。そんな専門的なテーマであっても小学生でも楽しめて、年齢に関係なく幅広く楽しんでいただけるのが、鉄道のいいところだと思います。

常設展示の充実ぶりに加えて、企画展、ワークショップと、さまざまな工夫を凝らす京都鉄道博物館。これから目標とするところは?

地域の人が誇りに思える博物館を目指して

瀬邊:今日は、展示されているパンタグラフもスイッチ一つで動かすことができて、その意外な動きには驚きました。

三浦:お客様を見ていますと、こちらが意図するのとは違う意外なところで感動されたりして面白いですね。

瀬邊:これからも、ますます工夫を凝らされていくのでしょうね。

三浦:そうですね。いろいろな展示や企画で、お客様に喜んでいただけるようにしていきたいと思います。企画展は年に2 回ぐらいですが、常設では展示していない収蔵品もけっこうありますし、テーマを決めて、他所から展示物もお借りするなどして、展示を充実させています。イベントも、いろいろやっていきたいですね。ただ遊ぶだけのイベントではなくて、たとえばミニSL に乗って楽しむのもいいのですが、12 人から15 人が乗れるぐらいのあんな小さなSLでも、ちゃんと蒸気で動いていて、やっぱり蒸気の力ってすごいなということを子どもにわかってほしいのです。何か一つ、お客様に持ち帰っていただけることを目指したいですね。そして、地元の京都の人たちが、「ここに、こういう博物館があります」と、世の中に発信していけるような施設にしていきたいです。

瀬邊:今日は本当に楽しませていただきました。ありがとうございました!

 

(佛大通信2018年3月号)

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