通信教育クロストーク

2018年01月24日
千葉芳夫研究室(現代社会学科)

「学びのサプリ」
社会学部 現代社会学科 教授 千葉 芳夫(ちば よしお)


過ち”と“寄り道”で巡りあった知識社会学という学び

 大学では英文学か米文学を学ぶつもりで、文学部に進学しました。ところが大学紛争の真最中だったため、講義をろくに受けることもできないまま、専攻を決めなければならない2回生になってしまったのです。「早く決めねば」と思った私はなぜか社会学を選択。いわば、一時の“過ち”で選んだ社会学が生涯の仕事になったわけです。
 そんな学生時代に読んだのが、ハンガリー出身の社会学者、カール・マンハイムの代表作である『イデオロギーとユートピア』。マンハイムは、お互いのイデオロギーを攻撃し合う中に真理が在り得るのかについて問題提起をした人です。
 彼が提唱したとされる知識社会学は、社会学の一分野ではありますが、知識の真理性・虚偽性を扱う、哲学に近い性格のもの。何度も同じ本を読み返すという研究スタイルを身につけ、一見、筋が通っているように思えて、実は矛盾していることに気付いたり、自分とは全く違う思考枠組みを理解出来たりするようになりました。
 私は、大学院から助教授時代まではずっとマンハイムについて研究していました。ところが、今から20年ぐらい前のこと。マンハイムが問題にしていた欧州の合理主義について、近代の合理主義を問題にしていた有名人、マックス・ヴェーバーはどう考えているか、少し“寄り道”しました。以来、本道には戻っていません。

神に奉仕する心から生じた資本主義は、感情を否定する

 ドイツの社会学者、マックス・ヴェーバーは、大学で教鞭を執っていた頃、朝まで学生と飲み騒ぎ、数時間仮眠しただけでまた教壇に立つというような人物だったそうです。著書が多数あるので、彼を研究する学者は多いのですが、同じ著作の中でも違うことを述べたりするのです。それをどう解釈するかが悩ましく、私は「揺れるヴェーバー」というタイトルで論文も書きました。ツッコミどころ満載なのがヴェーバー研究の醍醐味でもあり、とっつきにくさかもしれません。
 その代表作ともいえる『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』の中で、勤勉に働き、禁欲的に生きる資本主義の精神が、プロテスタンティズムの中から生まれてきたとヴェーバーは述べています。中でも焦点を当てたのがジャン・カルヴァンという思想家が説いた、プロテスタントの一派・カルヴィニズム。この信者たちは、自分が神のためにどれだけ働き、神に従って生きたかを毎晩チェックしていました。この“神”を“会社”や“社長”に置き換えると、その根本は資本主義と同じという構造が見えてきます。
 死後に天国へ行くため、上から降りて来る神(社長、会社)の命令に“道具”となって従い、自らは決して楽をすることも儲けることもなく、額に汗して働く。そんなカルヴィニズムはオランダで隆盛し、イギリスの産業革命に影響を及ぼし、アメリカ大陸に渡ったピューリタンたちが行った開拓の精神的支柱になりました。
 その資本主義の思想は、神(社長、会社)を潤すものの、人間的な感情は切り捨てられるとヴェーバーは指摘しています。現代社会に照らし合わせると、ただただ数字や利益を追い求めるため、滅私的な経済活動を行う異様さを思い起こさせます。一方で、そんな社会から切り離されたがゆえに暴走し、死刑になりたいから殺人事件を起こすような悲劇も見受けられます。感情を否定して理性で支配するのではなく、感情に寄りそう理性の在り方が自然だと、私は思います。

合理主義を研究しながらも自身は、反合理主義で

 天気が悪ければ本を読み、天気が良ければ一眼レフカメラを携えて出かけるのが私の休日の過ごし方です。この趣味は、高校生の時に父からもらったカメラがきっかけですから、もう50年になります。撮影対象は花や風景。人物はゼミ生と開くコンパや合宿時にしか撮りません。
 京都市内の桜や紅葉の名所はほとんど撮影したと思います。私は反合理主義者なので、車を持っていません(笑)。ですから今は、電車で日帰りできる範囲が主ですが、いつかは何日もかけて撮影旅行できれば良いなと思っています。
 観光シーズンは、混み合う有名社寺を避けて、穴場を回ります。佛教大学の南方、千本から烏丸にかけての寺之内通り沿いには、人影はまばらながら桜や紅葉が美しい寺が点在しています。京都に来られた時は訪ねてみてください。

[経歴]
1950 年愛媛県生まれ。
京都大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得退学。
大谷大学文学部助教授、佛教大学社会学部助教授を経て教授。
専門は知識社会学。知識の真理性・虚偽性、近代合理性といった問題および社会が知識(意味)によって作られるという構築主義の理論に関心をもっている。趣味はカメラで、休日には植物園や京都の寺社の花や風景の撮影を楽しんでいる。

(佛大通信2017年11月号より)

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