通信教育クロストーク

2015年11月10日
黒田彰研究室(日本文学科)

「研究室訪問」
文学部 日本文学科 教授  黒田 彰


我が文学研究の師匠となる先生たちとの出会い

 私の日本文学研究の出発点、それは1970年(昭和45)に入学した愛知県立大学の渥美かをる先生との出会いです。渥美先生は今日の平家物語研究の基礎を作られた方で、私がこの道を歩むきっかけを与えてくれた先生です。
 こうして始まった私の大学時代、私は日本文学を研究する上できわめて衝撃を与えた論文に出会います。1972年(昭和47)に岩波書店から発刊された雑誌「文学」10月号に掲載されていた伊藤正義先生の「中世日本紀の輪郭─太平記における卜部兼員説をめぐって─」という論文で、鎌倉~室町という中世に『日本書記』がどのように注釈され理解されていたかというものでした。
 『日本書記』は、その時代ごとに注釈され今日に至りますが、先生の着眼点は全く新たなもので、『太平記』に引用されていた『日本書記』巻25に収められる“三種の神器”の話に焦点を当てられ、『日本書紀』本体を理解するよりも、鎌倉・室町時代という中世の人たちのその解釈という視点が大切であると論じられています。私にとっては目からウロコが落ちる発想で、これは今日の私の研究方法を基礎付けるものでした。この論文は、今日においてもそのまま通用する名論文で、皆さんも機会があれぱぜひ読んでみてください。

一つを深めるのではなく、幅広く色々な研究方法をもつということ

 私が学んだ愛知県立大学には大学院がなく、渥美先生から、日本文学の研究を進めるうえで関西大学の大学院をご推薦いただき、私は関西大学大学院で御伽草紙の研究をご専門とされていた岡見正雄先生に師事し、『太平記(一)』(角川書店)の注釈をお手伝いすることとなりました。しかし、この大学院で、なんと私が宝としていた論文の著者である伊藤正義先生とも出会うことが叶います。大阪市立大学におられた伊藤先生が、非常勤講師として私がいた関西大学の大学院で教鞭をとられていたからです。先生のご専門は能楽の謡曲で、そのご研究も先生独自の視点でとらえられており、私は先生の解釈の切り口と他の専門家との違いに唖然としました。伊藤先生の『謡曲集』上中下(新潮日本古典集成)(新潮社)の注釈のお手伝いができたことも、何よりの勉強となりましたし、学問の厳しさを体感する機会でした。私は、その後、伊藤先生から『和漢朗詠集』の古注釈を世に出すよう、お勧めいただき、共編の形で全三巻を公刊することができました。そして2000年(平成12)、私は佛教大学に着任しました。その頃、本学にはかつて、平家物語研究で著名な高橋貞一先生がおられ、京都に来ることを二つ返事で快諾しました。高橋先生からも院生時代に深い学恩を賜りました。
 このような研究テーマやそのスタイルも異なる、幾人もの師匠となる先生方との出会いこそが、私が日本文学を研究してきたうえでの宝物であり、こうしたいくつもの出会いがあったからこそ、研究する課題に広く柔軟に対応できるようになったと私は考えています。

仲間たちとの文学研究から生まれる、新たな発見と、ロマンに満ちた喜び

 前述した師匠となる先生方は、もう故人となられましたが、今日の私をあらしめているものとして、学界で出会った友人たちの存在があります。1985年(昭和60)に幼学の会という数名の集まりを作ったことがそのきっかけでした。
 幼学とは、古代中世に子どもたちの教養を形づくった今日の初等教育にあたる学問のことです。幼学は文学のみならず、古代中世の文化の基盤をなしています。幼学の会はそれを読み解く会であり、月に一度、輪読会を行い、これまで『考子伝注解」(汲古書院)など、5冊の本を編集し、現在は6冊目の制作に取りかかっています。
 この会は30年にわたって続いており、その仲間こそがかけがえのない、私の第二の宝なのです。この会を通じ、見出した研究テーマの数は限りがありません。たとえば、そのーつが、『太平記』 巻32の舜という孝子をめぐる説話の中で、これまで謎とされてきた部分を描いた、5世紀の図像を発見したことです。こうした疑問が解明できた時の喜びは量り知れません。


経歴
1950年(昭和25)生まれ、愛知県立大学卒業、関西大学大学院博士課程満期退学、文学博士(関西大学)。愛知県立大学講師、助教授、教授を経て、2000年(平成12)より佛教大学教授。第12回日本古典文学会賞受賞。著書・論文に『中世説話の文学史的環境』正・続(和泉書院、1987・1995年)、『和漢朗詠集古注釈集成』全三巻、(伊藤正義と共編、大学堂書店、1989-1997年)、『孝子伝の研究』(思文閣出版、2001年)、『孝子伝図の研究』(汲古書院、2007年)など。

(佛大通信2015年4月号より)

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