通信教育クロストーク

2017年04月15日
学習体験記 社会福祉学科卒業生(T.Sさん)

入学同期

 30年前、経済的事情が厳しいため、一番安上がりになる高校へ進学した。担任の先生が「進学校へ行かないか?」とわざわざ自宅に電話をくださったが、考える余地はなかった。早く働かねばと思っていた。高校卒業後は警察官になった。同期には大卒者が半数近くあり人間の幅の違いを思い知った。そして職場管内には某有名私大があり、同年代の彼等を尻目に見ながら仕事をした。仕事をしていて自分の未熟さを感じる度に「学が足りないからだ」と思い、大学生を見る度に「私は何をやっているんだろう」と思った。

 以来、結婚や出産、再就職を経験しながらも、何かある度に「学が足りない」と同じ地点に戻ってしまう。40歳を過ぎてもなお、同じ事を繰り返す自分にいい加減踏ん切りを付けたくて、そして、ここまでこじれさせた要因と共に、長らく抱え込んでいたひとつの疑問について、それが何故なのかが、どうしても知りたくて、「ひきこもりになろう」と決心した。このままだと死ぬ時も後悔する。もうやるしかないと思った。ひきこもって勉強しよう。それまで何度も検討しては断念してきた佛教大学通信教育課程に飛び込む勇気がやっとできた瞬間だった。

 入学当時、3人の子どもは長女が大学1年、長男が高校3年、次女が中学2年だった。経済的にも無茶な選択であったが、夫に決意表明すると「次女が高校を卒業するまでに必ず卒業」という条件付きで快諾してくれた。

 

ひきこもり生活

 まずは学習会に参加し、諸先輩の声を聞いた。「毎日2時間コツコツやれば、4年での卒業は確実に大丈夫!」と言われた。なので、私も目標を毎日2時間に設定した。睡眠を削ると仕事に影響がでるので食事の時間を削った。家族の夕飯を作りながら食べ、家族が食べ始めたら勉強を開始した。おおむね20時~22時、23時までやるというのが常であった。休日前と休日の夜はoffにした。その代わりに休日昼間の6時間を勉強に当てた。友達の誘いも事情を説明して全て断り、確保できる可能な限りを勉強に勤しんだ。精神保健福祉士受験資格取得コースだったので、取得単位は170単位ほどであったが、このスタイルをひたすら継続していたら、テキスト履修は4回生の初めで全て終了した。1カ月1教科を3年間毎月の計算である。もちろん家庭の事情があるので、その場合は翌月に2科目受験という方法で攻略した。

 テキストは学習の要点と設題を頭に入れた上できっちりと漏らさず全て読んだ。参考文献は、ほしいタイミングで手に入るように町の図書館に取り寄せ依頼をした。毎月提出の毎月受験は、リポート提出の為の学習と試験勉強が定期的に行き来するので頭が混乱するが、関連科目を連続させれば効率的で学びも深まる。月初に提出し、次のテキスト履修を進めながら試験の10日前から試験勉強というスタイルを通した。テキストはどの教科も読み難いが、固い肉の塊を必死に奥歯でかみ砕いている犬のように、かみ続けたら、そのうち慣れる。

 試験に関しては過去問題からの出題だからと高を括ってピンポイントの解答にこだわらず、学習の要点と照らし合わせながら対策しておく方が無難である。その方がどんな問題が出ても臨機応変に対応できるし、高得点が狙える。

 履修全般に関して言えば、最短で卒業を狙うなら、綿密なスケジュール作成とチェックが大事である。ひとつのミスが1年遅れを生み出す科目もあるからだ。私の場合は年間スクーリング・受講予定と申込み日を貼り出し、カレンダーに書き込み履修状況を常に確認し、とにかく漏れの無いように細心の注意を払った。

 

卒業リポート

 選択だからと履修せずにおくには勿体ないのが卒業論文である。大学生活で一番良かったのは、卒業リポートへの挑戦であった。4回生になった段階で実習2カ所と、スクーリングが少々残っていただけであり、卒業リポートを選択しなければ国家試験受験対策にばっちり時間が取れる状況であった。けれど、私はどうしても解明したい疑問があった。これをクリアしなければ、私が大学に来た意味が無かった。担当教員の若尾典子先生は、そんな私の想いをしっかり受け止めてくださった。頭が硬く、理解力の足りない私は、何度先生の指導を受けてもまともにレジュメも書けず、ため息まじりの先生を見て本当に申し訳なく思った。出来無さ加減に身悶えるほどの苦しみを味わい、厳しい指摘に泣きながら帰ったこともあった。先生に必死に食らいついた日々は、今思い出しても涙が出てくる。それくらい泣きながら書いたリポートであった。若尾先生は、厳しい中にも優しさがあり、追いつけない時はちゃんと振り返って手を差し伸べてくださった。通信教育課程の学部生であるにもかかわらず、通算して20数回もの個人面接指導を、毎回1~2時間もしてくださった。これ以上にない贅沢であった。完成し、口頭試問を受けた時、先生から「本当によく頑張ったね!!」と言ってもらい、また、泣いた。若尾先生に教えていただいた事は、PSWとして働く今も私の中に生きていて、時々に先生の声が聞こえる。先生には本当に感謝しかない。

 

おわりに

 ひとことで言えば本当に過酷な4年であった。子ども達は成長し私大生2人と高校生を抱え経済的に厳しく、冬の夜は毎年1カ月農作業を追加した。4回生の終盤が一番キツかった。実習に行きながらの夜間農作業もキツかったが、国家試験の受験日が迫ってくる中で卒業リポートがギリギリまでもつれ込んだのもキツかった。試験勉強だけに集中できないことが、焦りと不安をもたらし精神的にかなり追い詰められた。また、受験3週間前に同居する義父の末期癌が発覚したときは、家族中が混乱し勉強どころではなく、もう天に見放されたと思った。そんな無茶苦茶な状態であったが、何とか全てをやりきった。

 結果、幸いにも義父は抗がん剤治療で持ち堪え、無理と言われた春を迎えた。私は卒業リポートで学部長賞をいただき、更に精神保健福祉士の国家試験にも合格した。番号があった時はわあわあと号泣した。本当に苦しかった。

 ここまでこれたのは、質の高い学びを提供してくださった佛教大学と、若尾典子先生、支えてくれた家族、苦しい日々を一緒に乗りこえた学友、励ましてくれた友人、快く有給をくださった職場等周りの方々のお陰であると深く感謝している。

 

~プロフィール~
2012年4月 佛教大学社会福祉学部社会福祉学科入学
2016年3月 同卒業
    4月 精神科病院 看護部からPSW室へ異動

(佛大通信2017年4月号より)

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