通信教育クロストーク

2015年12月04日
田中みどり研究室(日本文学科)

「研究室訪問」
文学部 日本文学科 教授  田中 みどり(たなか みどり)


人間を知りたい思いから、言葉の道へ

 わたくしは、高校時代から言葉について研究したいという思いがあり、大学は文学部に進学しました。しかし、わたくしが大学に入った頃は、学生運動がさかんな時代でした。大学構内に入ることもできない日が続きました。学年末試験では、大学から課題が与えられてレポートを郵送するということもありました。まさに、皆さんが取り組んでいらっしゃる通信教育のような学び方でした。講義は受けられないものの、その時間に関心のある本をたくさん読むことができたのは、とてもよかったと思います。

 大学での学びは、1~2年の間は一般教養で、3年になって専門へと進みます。わたくしが選んだのは国語学(現在の名称は「日本語学」)です。他の学科でもよかったのですが、まずは日本の言語を知ろうと思いました。日本語文法を研究する上で、外国語の勉強も欠かせないものでした。

古代語から現代語まで、さまざまな研究テーマがある

 わたくしは、日本語の音韻、文法、語彙などを研究しています。対象は、古代から現代までです。
 以前、テレビで、日本語の「アホ」「バカ」などの言葉が、どの地方で使われているかを調査した番組がありました。その結果、「アホ」や「バカ」などの言葉が、都のあった京都から日本全国に同心円状に広がっている、という調査結果が得られました。これは、柳田國男の<方言周圏論>にあてはまります。ただ、それらの言葉がどのような意識で使われているか、というところまで広がるとよいと思います。
 また、京都弁に「~はる」という言葉がありますが、「~はる」の意味は、大阪や滋賀とそれぞれに異なっています。
 このように、日本語学には、身近なテーマもたくさんあります。

言語学を学ぶためには、言語の学習が大切

 言語の研究は、ギリシアの言語起源論、修辞学にはじまり、また、ローマ帝国が、植民地の現地の言葉を知るためなどから、ヨーロッパで始まりました。日本語の研究は、奈良時代から少しずつ行われていましたが、言語学は、日本には明治時代に学問として入ってきました。

 ところで、室町時代に、キリスト教の布教活動のために日本に来たイエズス会の宣教師たちは、日本の歴史と日本語を理解しようとしていました。わたくしが講義で使いもする『ESOPONO FABVLAS』は、1593年に天草で出版されたもので、宣教師たちが日本語を学ぶために、当時の日本語でイソップ物語の内容を記したものです。この本では、たとえば「顔(かほ)」は、「cauo」(〔kawo〕)とあり、これはその時代の話し言葉の音韻に即しています。これは、当時の日本人にとっても、ローマ字を知りラテン語を覚えるための教科書でした。現在では、この表記から、日本語の当時の音韻や語彙を知ることができます。

 わたくしは、大学時代より、いくつかの言語の基礎を学んできました。少しも習得できておりませんが、現在も、時間のあるときに、語学のラジオ講座を聴いております。

 多くの外国語を知ることで、言語の比較ができ、特徴を知るようになります。たとえば、日本語は結論を最後に言いますが、英語などでは結論が先です。これは、季節の循環の中で稲を作る農耕民族と、獲物を捕えるときに瞬時の判断を求められる狩猟民族との違いだと考えられます。言語を学ぶことは、それを用いる人々の考えを知ることにつながります。

 みなさんが言語学や日本語学を勉強するためには、日本語や英語以外にも、外国語を学んでほしいと思います。いろいろな言葉を知ることで、言葉のあり方や、それを用いる人々の文化を学ぶことができると思います。


経歴
1949年、三重県生まれ。
奈良女子大学文学部卒業
奈良女子大学大学院文学研究科修士課程修了

(佛大通信2015年12月号より)

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