通信教育クロストーク

2015年11月25日
村岡潔研究室(社会福祉学科)

「研究室訪問」
社会福祉学部 社会福祉学科 教授  村岡 潔


医療現場から学問の場へ
一冊の本との出会いが新たな医学研究への扉

 私の専門分野である医学概論は、医学の在り方を考える哲学のような学問であり、第2次世界大戦中に大阪大学の澤瀉久敬先生によって研究が始められました。医学の中では、まだ80年余りの歴史の学問ですが、この分野を研究するきっかけとなったのは、澤瀉先生の後を継がれた京都大学出身の中川米造先生を師事し大阪大学大学院に進んだことによるものです。若き日の私は、医学の道を目指し日本医科大学医学部に入学し、ここで医学の知識と技術を学びました。そして卒業後は、救命救急センターなどで研修医として勤務した後、東京労災病院と山形県北村山公立病院で脳外科の医師として医療の現場で活動していました。

 こうして10年ほど働いた頃、当時、大阪大学医学概論教室で教鞭をとられていた中川先生が執筆した『環境医学への道』を読み、その影響を受け、大阪大学大学院で、私は、再度、学問としての医学の正体と向き合うことになったのです。そこで現在も続く学究仲間に出会い多くのことを学んできました。

 私は、ちょうどそのころ衝撃的なもう1冊の本との出会いを迎えます。『人はなぜ治るのか』というアンドルー・ワイルという医学者の書いた本で、「人間を含めた生物は自分で治る力を持っており医療はその手助けをする」という自身の理論を説いたものでした。彼は、漢方などの東洋医学と化学により生み出された薬を用いる西洋医学の互いの良い部分を取り入れた総合医療による治療を推奨しており、この本を読んだ私は、まさに「目からウロコが落ちる」体験をしました。

医療機器や薬など、現代医療の不透明な実態を多角的に考察

 私が医療現場にいた頃の内科診断学は、ドイツの医療の名残があり、問診をして確かな症状があるなどの正当な理由がないと検査は容易に行えませんでした。ですが、現在では、患者に対して、まず血液検査やCTなどの検査を行い、その数値で病気を判断し、投薬して、数値が正常値に戻れば治ったと判断します。これは、アメリカの医療の影響を受けています。

 例えば、CT検査ですが、英国などでは大病院でのみで行いますが、日本では末端の開業医の診療所までもが設置し、頻繁に検査を行っています。その違いは、日本の医療制度が経済に関係していて、開業医の場合、問診だけではお金にならず、患者数を増やすために高額なCTを設置する。その分、さらに検査数を増やさないと減価償却できないという理由があるからです。

 また、検査ででた数値が、どこまで病気を判断する基準になるのか?も疑問です。例えば、コレステロールが高いと成人病のリスクが高くなると言われますが、低すぎるとがんになるリスクもあると言います。近年、副作用が問題になっている子宮頸がんのワクチン接種をして、将来、がんを罹患しなかったとしても、それがワクチンの効果か、自身の体質だったのかの証明はできません。隠謀社会学の立場で見ると、こうして医療現場に、新しい機器が導入されその検査結果を理由に大量の薬が処方される裏には、明らかに大手製薬企業の力が見えます。私は医学哲学、医療人類学、医療倫理学、医療社会学など、様々な学際的視点から、こうした現代の医療現象・医療文化について探究しています。

最先端の学会研究や仏教医学の講座など、多彩な活動が私の学び

このように現代医学を多角的に追究する私の研究方法は、日々進化している医学を知る必要があります。もちろん関連書籍も読みますが、記載内容が古いことが多いのです。そこで、東京ビッグサイトで行われる国際バイオテクノロジー会議・展、また感染症学会やワクチン学会、統合失調症学会、ロボット手術の学会などの様々な学会に毎年出向き、発表される今の声を直接聴くことを大切にしています。最先端の研究や現場での活動を知り、そこから新たなテーマを見つけ、研究するのが私流です。

また、佛教大学ビハーラ研究会という、仏教的な観点から看取りのあるべき姿を考えるサークルにも参加し、本学の四条センターでも講座を開講しています。実は、本学に来た当初は、仏教学科の仏教看護というコースで医学やターミナルケアについて教鞭をとっていました。80年代前後からホスピスの考えが入ってきていたのですが、仏教の視点から終末期医療や看護のあり方を考察したかったのです。

 とりわけ現代の「医学」は、様々な視点から考える必要があると私は考えています。本当は理数系に強い学生は必ずしも医者向きではないのです。文系の学問や音楽などが得意な学生のほうが医者に向いています。医者にとって何よりも大切なのは人間の喜怒哀楽を理解する「心」ですから。


経歴
1949年群馬県生まれ。1975年日本医科大学卒業。1993年大阪大学大学院医学研究科博士課程集団社会医学専攻単位取得満期退学。時どき内科医。

(佛大通信2015年11月号より)

TEL : (075)491-0239
受付時間 10:00~17:00(13:00~14:00を除く。木・日・祝日休み)
ページトップ