通信教育クロストーク

2015年10月23日
メドロック皆尾麻弥研究室(英米学科)

「研究室訪問」
文学部 英米学科 准教授  メドロック 皆尾 麻弥(メドロック みなお まや)


ピアニストへの夢、公務員の勉強、そして文学の世界へ

 私は子どもの頃から、音大に進むことを考えており、ピアノの練習に明け暮れる毎日を送っていました。しかし、高校3年生の時、音楽を専門的に学ぶことが、経済的に負担が大きくなることを知って、きっぱりとあきらめました。そして、父と同様に市役所で働きたいとの思いから、公務員試験の勉強を始めました。ところが、その学びが全然頭に入らない。つまり、私には向いていないことがわかったのです。ちょうどその頃、師事していた先生から大学院進学を進められ、運命的に文学の世界へと進み、修士1年目の授業で、現在、主な研究テーマとしているウラジーミル・ナボコフの本と出会ったのです。
 その授業では、課題の本の文章を一言一言、丁寧に読むのですが、ナボコフは物事の形容がとても美しく、私は読んでいて、背筋がぞくぞくするような快感とも言える魅力を感じました。その美しさは物語の筋ではなく、まさに「言葉」の美しさです。言葉の選び方、響き、また頭韻をいくつも使う巧みさなど、読めば読むほどに、彼の言葉の世界の虜となっていくのです。また、大学院時代は全てが刺激的で、一流の先生に教わることができる幸せに満ちていたことを思い出します。

英語の他にも、ラジオ講座を活用して、フランス語など多言語を学習

 学生時代は、クラブ活動もせず、ひたすら勉強していましたが、ピアノを弾いたり、映画を観たりすることで気分をリフレッシュしていました。とりわけ、ヌーヴェルヴァーグ期のフランス映画に心酔していて、それがきっかけで毎朝NHKラジオのフランス語講座を聴いていました。元来、外国語が好きだったので、フランス語の次にはスペイン語、イタリア語というふうにさまざまな講座を聴き続け、やがてナボコフの母国語であるロシア語にたどりつきました。
 私の父親がビートルズファンで、幼い頃から英語を聴く環境が身近にあり外国語には早くから慣れていた上に、各国の言葉のリズムも好きなので外国語を聴き覚えることは苦ではありませんでした。
 私が専門的に研究するウラジーミル・ナボコフは口シア生まれですが、亡命して英語で小説を書くという多様な経歴をもつ作家です。ナボコフの言葉使いの巧みさは前述しましたが、彼は多言語を用いることができる作家でもありました。彼の作品にはロマンス諸語が数多く出てきますし、それを基にした造語も出てきます。そういう意味でも、学生時代に聴いたラジオ講座は非常に役立っています。

丁寧に読むことを基本に、絵を描いて作品をより明確に理解

 文学研究の基本は、とにかく丁寧に読むことですが、私が独自に実践していた学びの方法は、文学作品の一つひとつのシーンのイメージを、その本や筆記するノートの余白を使って、絵にするということがあります。それぞれのページに描写されているものの絵を描くのです。そうすることで、そのシーンが鮮明になり、たとえば後に出てくる場面とのつながりなどが、よりわかりやすくなり大変役に立ちます。それから登場人物のリストと年表を作りながら読み、また、それとは別にノートを作り、作品の1ページごとに気になった点や気になった文章、表現などを記録します。
 これは、私独自で創り出したスタイルですが、ナボコフやプルーストなど、細かい描写をする作家の作品をテーマに論文を書くときには有効に活用できます。
 今、授業ではオスカー・ワイルドの戯曲などをテーマに、とにかく作品を丁寧に読むことにポイントをおいて指導していますが、本を読むことは本当に大切なことだと思います。本読みには、読解するために論理的な思考力が必要ですし、本を細かく読むことで想像力が養われます。それは、私たちの日常生活の中でも重要な想像力です。皆さんも色々な本に出会い、自分に合った作品を探究してください。


経歴
鳥取県米子市生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学。文学博士。兵庫県立大学非常勤講師、山口大学人文学部講師を経て現職。ロシア生まれの作家ウラジーミル・ナボコフの作品が目下の研究対象。
[著書]「ハンバートの目にも涙」(研究社『書きなおすナボコフ、読みなおすナボコフ』 2011年収録)「『ロリータ』の車窓から」(研究社「英語青年」総号1910号、2009年収録)他

(佛大通信2015年10月号より)

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