通信教育クロストーク

2016年01月13日
中道泰子研究室(臨床心理学科)

「研究室訪問」
教育学部 臨床心理学科 准教授  中道 泰子


1冊の本が開いた、私の臨床心理学の世界

 高校時代、たまたま手に取った「影の現象学(思索社、1967年)」という1冊の本との出会いが、臨床心理学の世界への扉を開くこととなったきっかけです。
 この本は、誰の心の中にでも存在する「影」について書かれたもので、その内容に衝撃を受け、心の世界に強い興味を持ちました。この本が、日本における臨床心理学の第一人者である河合隼雄先生のご著書だと知ったのは、ずいぶん後になってからです。
 私が高校生だった当時、臨床心理学は今ほどメジャーな学問ではありませんでした。ですから、心理学を学ぶためには自分がどのような方向に進めばよいのか見当がつかず、近接領域だと考えられた教育学部に進学しました。ところが、大学に進学したものの、自分がイメージしていた学びは、そこでは得られそうにありませんでした。目標が見えず、「もう、大学を辞めよう」と考えていたところ、専門分野を学ぶ2回生になれば心理学の講義を受けられるチャンスがあると友人が教えてくれたのです。私はその講義を受けたい一心で、1回生の残りの時間を期待に変えて過ごしました。

理論と実践に明け暮れた学びの時代

 待ちに待った2回生となり、初めて受講した心理学の講義は、「遊戯療法の世界」という講義でした。その講義は、子どもの心を理解する視点を学ぶとともに、感受性訓練などの実習が取り入れられた内容で、身体を激しく動かすわけでもないのに、受講後には疲れて動けなくなるほどでした。「心」を遣うということは、エネルギーを要するものなのだと身をもって知りました。この講義がきっかけで、その先生のゼミに所属し、本格的に、臨床心理学の世界へと足を踏み入れていくことになりました。
 そしてさらに深く学びたいと考え、大学院に進学しました。大学院での学びは、早朝7時前からのスーパーヴィジョンというラーニンググループに始まり、箱庭療法、夢分析、カウンセリングの実際の授業など、実践につながる訓練が夜遅くまで続く、中身の濃いものでした。もちろん理論的な基礎は重要ですので、講義から次の講義までの1週間で、講義テーマに関する書物を最低3冊は読み、レポートを提出することが必須とされていました。とにかく、必死で本を読み、その知識を持って授業に臨み、書物に書かれていることが実践の中でどう生かされるのかを理解していきました。体験を通しての学びは大変なものでしたが、心の世界の奥深さを体感できたとともに、自分自身に対する多くの気づきをもたらしてくれました。

臨床心理士となった今も日々、研鑽

 大学院卒業後、臨床心理士として社会の現場に出てからは、カウンセリングルームを開き、医療、教育、福祉、産業、司法などのあらゆる領域のクライエントさんにお会いしました。
 一方で、臨床心理士としての自分の力量をあげるために、スーパーヴィジョンを受け、研修や研究会に参加し、学び続けました。しかし、それだけでは限界があるのではないか・・・・・・と感じ始めていた時に、実践と研究は車の両輪のようなものでそのどちらか一方が欠けてもいけないという、河合隼雄先生の書かれた文章が目に飛び込んできました。
 そこで、これまでの臨床実践を見直す機会を持とうと、博士後期課程への進学の決意をしたのです。しかしそれは、頭の柔軟性が失われつつある年齢からの学びでしたので、なかなか大変な道のりでした。その時ご指導いただいた先生からは、実践と研究を結び付け、普遍化することの重要性を教えていただきました。
 そして現在、大学で研究を行いながら、次の世代を担っていく臨床心理士となる学生さんを育てるという機会を与えていただいております。これまで自分が教えてもらってきた心の世界の奥深さを、学生さんに伝えていくためには、まだまだ自分自身の修行が足りないと感じる毎日です(笑)。


経歴
大阪教育大学大学院教育学研究科修士課程修了後、臨床心理士としてカウンセリングルームを開業する傍ら、医療、教育、福祉、産業、司法などの各領域と協働しつつ心理臨床実践を重ねる。2008年、佛教大学大学院博士後期課程満期退学。博士(教育学)。2014年より、佛教大学准教授。[著書]『箱庭療法の心層(単著)』(創元社、2012年)、『体験から学ぶ心理療法の本質(共著)』(創元社、2002年)など。

(佛大通信2015年7月号より)

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