通信教育クロストーク

2019年02月10日
ブリュワリーを互いに認め合える社会参加の場に。

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京都の洛北、比叡山の麓に位置する一乗寺は多くの寺院が点在する隠れ里。一乗寺ブリュワリーは、この地で精神障がい者の就労支援を目標に掲げ、クラフトビール造りに挑んでいる。今回は、社会福祉学科の篠原由利子先生が醸造士の横田林太郎さんに話を伺った。

一乗寺ブリュワリー

2011年、京都市左京区一乗寺に誕生。中京区で「たかぎクリニック」を開院し、精神科医として在宅医療に取り組む高木俊介氏が、将来的には在宅で暮らす精神障がいを持つ人たちの雇用の場とすることを目標に掲げ、クラフトビールの醸造をはじめる。2017年、高木氏に共感した伴克亘さんが共同経営者として「ビアパブ ICHI-YA」をオープン。一乗寺ブリュワリーから樽で直送される数々のクラフトビールを味わえるようになった。
粉砕した麦芽と温水を混ぜ合わせる「マッシング」と呼ばれる撹拌工程は手作業。これをガスの直火で熱することで、一乗寺ブリュワリーならではのコクのあるビールに仕上がる。

横田 林太郎(よこた りんたろう)
京都・一乗寺ブリュワリー醸造士。東京農業大学院応用生物科学科醸造学専攻修士。高木氏の夢に共感し、2014年に入社。現在、林晋吾さんとともにクラフトビールを醸造。地元のイベントなどにも参加している。

林 晋吾(はやし しんご)
京都・一乗寺ブリュワリー醸造責任者。関西大学工学部生物工学科卒業。酒造会社で日本酒とビールの醸造を15年間経験する。2015年、一乗寺ブリュワリーのビール造りに興味をもち、入社。新しいビールのレシピづくりや醸造に取り組んでいる。

篠原 由利子(しのはら ゆりこ)
社会福祉学部社会福祉学科教授。
広島女子大学(現:県立広島大学)文学部社会福祉学科卒業。同志社大学大学院文学部社会福祉学専攻博士前期課程修了。研究テーマは精神医療・福祉における精神障害者の人権、精神障害における「病いの体験」の分析と専門的支援。

京都・一乗寺ブリュワリーの代表者である高木俊介さんは、包括型地域生活支援プログラム「ACT-K」を立ち上げ、チームによる精神障害者の在宅ケアに日々奔走。現在、ブリュワリーでは、高木俊介氏の「生きづらさを感じている人の人々の社会参加の場に」という夢に共感する横田さんと林さんが、ビール造りに励んでいる。

精神障がい者が社会復帰する力に

篠原:私は精神福祉士(PSW)で、大学でも教えています。こちらのブリュワリーでは、精神障がい者の地域での生活を支援しようと取り組んでおられていて、新しいと思いました。そのきっかけは、何だったのでしょう。

横田:高木さんが一乗寺ブリュワリーをなぜ設立したのかと言いますと、一つには、設立した2011年はクラフトビールがこれから盛り上がろうという時期で、成功していく形が見えはじめた年だったからだと聞いています。ビール好きだったこともあって、ビールを使って就労支援ができないだろうかと考えたんですね。高木さんは、精神障がいを持っている方が、社会的に復帰するにあたって自尊心を持つことが何よりも大切であると考え、お酒のように、しっかりと一般市場において認められているものを作ることに携わることが社会復帰の力になるからと、この醸造所を立ち上げることになったのです。

篠原:作業所で作っているセルフヘルプ商品というと、どうしても紙で作るものとか、手工芸品でだいたい同じものになってしまいがちです。

横田:高木さんも同じことを言っています。いまの福祉の就労支援は、一部の市場の方々向けの小さなコミュニティで成り立っています。それよりも、一般市場においてもっと胸を張れるものを作って売ることで、自尊心を持てるようにというのが高木さんの考え方ですね。

篠原:横田さんが、ここでビール造りをしようと思ったのは、どんなきっかけですか。

横田:私は東京にいたとき、路上生活をされている方の支援団体で活動していました。路上生活をされている方は、統計データによると精神障がいを持っている方が多いということです。行き場がなくて、最終的に路上生活になっているのです。そういう方への支援の方法としては義援金しかないのかなと疑問に思っているときに、高木さんのプロジェクトを知って、私が持っている醸造の技術を活かせると思いました。

篠原:ホームレスの支援というのは、たとえばどんな形でされていたのですか。

横田:炊き出しの支援と事業支援で、どこに相談すればいいのかをご紹介したりしていました。障がいも含めて誰にでも個性があるので、それを互いに認め合える社会にという、高木さんの思想に共感しました。高木さんは、脱施設化を目標に掲げているんです。

篠原:高木さんが取り組んでおられる「ACT-K」も、問題の解決を入院に頼らず、重度の障がい者用のサービスを利用するに至らない人たちについては、絶対に地域でというお考えですね。

横田:それが「ACT-K」の目的でもあります。医療関係者さんと家族、周囲で住んでいる方などが地域で見守り、社会復帰を果たすことですね。

篠原:横田さんもそこに賛同されたのですね。

2011年、一乗寺ブリュワリーが発足した頃は、ビール造りは試行錯誤。2014年に横田さんが入社した1年後、林さんも醸造士として入社し、2人でビールの種類を見直すことに。いまでは毎年「インターナショナルビアカップ」で賞を受賞するビールも誕生している。

一乗寺ブリュワリーらしいビールを

篠原:今度はビール造りの話をうかがいます。林さんは、なぜ一乗寺ブリュワリーでビール造りをしようと思ったのですか。

林:以前は酒造会社に15年いて、日本酒とビールを造っていたのですが、様々なスタイルのビールを造れる環境にある一乗寺ブリュワリーで醸造技術を磨きたいと思ったのが転職のきっかけです。

横田:林さんが入社してから、ビールの種類はガラリと変わりました。2人でスイスイ飲めるような、お替わりしたくなるようなビールを造ろうということで、ゴールデンエールから造り始めて、それからペールエールも造るようになって、ベルジャンウィート、スタウトという順番に種類を増やしてきました。

篠原:一乗寺ブリュワリーのビール造りには、どんな特徴がありますか。

横田:ガスで火を入れるところですね。100℃以上になるので、べっこう飴を作るのと同じような反応が起きやすく、ビールに麦芽由来のコクや香りがつきやすいんです。麦芽の風味を豊かにするために、デコクションという伝統的な方法なのですが、少しずつ煮込んで麦芽の風味を際立たせることもしています。麦芽の風味が豊かなことがうちの特徴ですね。

林:前の会社ではボイラーだったので、ここでガスを使うのも初めてでした。感覚で火加減を調節したりするのも初めてなら、こうしてタンク内を撹拌することも初めてですし、そのへんが面白いです。たとえば夏なら、冷却に時間がかかりますから、微妙な調整が必要になります。

篠原:あぁ、やっぱり愛情を持って作っておられるんですね。地域のイベントにも、お二人で参加されているんですか。

林:はい、僕たちが出かけて販売しています。「いつも飲んでいます」「美味しいです」と言っていただけて、うれしいです。

篠原:ビール造りの魅力は、どんなところですか。

横田:ビールって、かなり料理に近いお酒だと思うんです。日本酒でしたら、米麹、蒸し米、水と材料が決まっていますし、ワインでしたらブドウとイーストだけですが、ビールにはフルーツやスパイスを使ってもいいので、いろんな個性が出てきます。そんな幅広さが、ビール造りの面白さだと思います。

篠原:同じゴールデンエールでも、それぞれのブリュワリーで違うんでしょうね。

横田:ぜんぜん違うので、味比べをすると楽しかったりしますよ。

独自のクラフトビール造りも軌道に乗ってきたいま、一乗寺ブリュワリーの次なるステップは?

「農福連携プロジェクト」で夢に近づく

篠原:今後の計画を教えてください。

横田:いま、農福連携プロジェクトが動いていてて、農業と福祉の連携で、群馬県で麦芽を造っている作業所や岩手県遠野のホップを使って、ビールを造ろうと動き出しています。将来的なことへの第1歩ということです。同じ京都でクラフトビールを造っている西陣麦酒とも一緒に進めています。西陣麦酒さんは、自閉症をもつ利用者さんとの醸造・販売プロジェクトを掲げており、うちで造った農福連携プロジェクトのビールを西陣さんで瓶詰めしていただけるように、進めています。

篠原:ビール造りのほうも進展していくのでしょうね。

横田:いまよりも醸造所を大きくするために改装する予定です。設備も新しくなりますので、いろんな酵母も作ってみたいですね。風味のバリエーションが増えますし、もちろん、ホップもいろいろな種類を使ってみたいです。

篠原:それは楽しみですね。

横田:やはり就労支援という目的があるので、実現したいです。私たちが持っているスキルで、高木さんが思っている夢の微力にでもなれればと思っています。

篠原:京都に一乗寺ビールありと名をはせ、精神障がいの方々の就労に結びつくことを願っています。今日は、ありがとうございました。

(佛大通信2018年11月号より)

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