通信教育クロストーク

2018年12月23日
坂本勉研究室(社会福祉学科)

「学びのサプリ」
社会福祉学部 社会福祉学科 准教授 坂本 勉(さかもと つとむ)


親しい人の死別から始まった社会福祉学探訪の道

 私が社会福祉学を学ぶきっかけになったのは、当時高校1年生の夏、つい最近まで親しくしていた知人との死別でした。彼は、何も言わずに突然自らの命を絶ってしまったのです。当時高校生だった私は、そのことを受け止めきれないばかりか、何も彼の隣人になれなかった自分を責めていました。そして、彼の家族の悲しみも推し量ることもできずただただ、自分の力の無さに愕然としていました。そのころから、幸福な生き方や、人の苦しみについて深く考えるようになったと思います。悩み続けながら、高等学校の倫理社会の授業でブッダの生涯、キリストの生涯、ソクラテスの生涯などを学んだとき、私の心に強烈なインパクトがあったのです。さすがに出家する決意はできませんでしたが、世の中に苦しんでいる人に少しでも役に立てる人生を歩むことこそが、知人の死に報いる方法だと考えるようになりました。そして、高等学校の近くに難病を抱える方々の治療施設があり、ボランティア活動を始めたのです。そこから、社会福祉の道にすすもうと心に決めていました。担任の先生からは「ボランティアでは食べていけないぞ? 理想を追うのもよいが、もっと現実を見なさい」と諭されましたが、頑固な性格である私は独立した社会福祉学科を設置している佛教大学を見つけたのです。

 特に、地位や名誉や財産に全く関心のなかった私は、福祉の道に歩もうと決意していました。しかし、大学3年生の福祉実習に重症心身障碍児施設での体験が、抽象的な福祉観しか持ち合わせていなかった私に大きな衝撃を与えました。福祉の道に本当に人生をかけて歩むことができるのか? 自問自答の末、答えがだせず1年間休学することになったのです。自分探しだったのでしょう。悩みながらも、「大学は卒業しなさい!」という両親の声もあり、翌年復学しました。その時、ソーシャルワーク研究で知られる中村永司先生に学び、大学院へ。その後、専門学校の教員を務めていましたが、ご縁があり佛教大学の実習指導講師の職を与えられ現在に至っています。

社会福祉学固有の視点とマクロとミクロの融合へ

 大学院での研究で、最も衝撃を受けたのが当時本学の教授をしておられた岸勇先生の書籍「公的扶助とケースワーク」という本でした。私は、ソーシャルワークを深めたいという動機で大学院に進学しましたが、ソーシャルワークは社会福祉学固有の技術ではあるけれども、生活保護適正化のもと、その技術の用いられ方に議論が及んでいました。簡単に表現すれば技術は用いる者によって中立であり、援助を必要とする方へのエンパワーメントにもなる反面、逆に抑圧的な技法として用いられる可能性があるということです。その時から、マクロな視点とミクロな視点を融合したソーシャルワーク研究の必要性を探求するようになりました。その結論は私の生涯にわたる研究テーマになろうと考えています。

社会福祉学研究と社会福祉実践の岐路に 双方を取り持ちウィンウィンに

 団塊世代が後期高齢者になる2025年はもう目前ですし、今では2040年問題とも言われています。一方で、高齢化の速度に対して、若者の人口減少が著しく、その急変は先進国と比較しても特異な状況にあり、わが国の判断が難しい時代にあります。私のつたない経験から、少しでも福祉分野に関心を示す学生に、安心して業界に送り出しながら、質の高いサービスを提供していただきたい。また、若者の将来もささやかであっても、幸福な人生を歩むことができる制度設計を願ってやみません。私は現在高齢者福祉領域を中心に研究をしております。また、難しい課題ですが高齢者の虐待予防研究を海外の実践事例や法体系から学ぼうとしております。私の研究テーマを聞いた方の多くは誤解しているように思います。研究の本質は予防なのです。その本質は、「自分がされたくないことを他者にしない」といったごく当たり前のことではないかと思っております。排除ではなく共生であり、争いではなく相互理解であるといえます。その実現には、コミュニティーや、行政、司法、医療、ソーシャルワーカー、カウンセラーなど様々な方々と協力しながら取り組まなくてはならないと思っております。福祉を仕事にしていくことを試行している若者と、高齢者がウィンウィンの関係になることが大切。そして次世代を担う若手世代の支援のあり方も、真剣に議論しなければなりません。日本が今後どのような福祉モデルを築くのか、その青写真が今求められています。

[経歴]
大阪府出身。佛教大学大学院社会学研究科修士課程、関西福祉科学大学大学院社会福祉学研究科臨床福祉学専攻博士後期課程満期退学。介護保険制度下における人権擁護、高齢者虐待防止研究をテーマに、人が避けて通れない高齢期をよりポジティブに過ごすための政策について探求している。

(佛大通信2018年8月号より)

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