佛教大学通信教育課程

通信教育クロストーク

2018年11月24日
山口洋研究室(現代社会学科)

「学びのサプリ」
社会学部 現代社会学科 准教授 山口 洋(やまぐち よう)


小説家デビューを夢見ていたが大学で数学の面白さに開眼する

 大学に入るまで、僕は自分のことを文学青年だと思っていました。算数も嫌いではなかったのですが、計算ミスをすることが多いうっかり気質だから理系には向かない。国語と社会が好きで、文章も時折書いていたので、密かに小説家を夢見ていたこともあったのですが、それがとんだ勘違いだったことに、社会学部に入って気づきました。

 2年生になり、必修ゼミの担当教官として出会ったのが、僕の人生に多大な影響を与えてくださった高橋和宏先生です。個性派の教員が多かった母校の中でも際立って色が濃いというか、知る人ぞ知る存在でした。ゼミが始まって早々、専門誌に掲載された英語の論文を翻訳する課題が与えられたのですが、2年生にはとても難しい内容でした。けれども、将来的に社会学で身を立てようとしていた同級生らと勉強会を作って進めていくうち、僕も引き込まれていきました。

 高橋先生は、高校の数学で習った「行列」を用いて人間関係を表現していました。例えば、ある集団のAさんからZさんまで、誰と誰が面識あるかないかを聞き取りし、良く話をするなら「1」、話をしないなら「0」として、行列式に当てはめて計算します。すると、その集団内における人間関係の構造が分析できるわけです。計算ミスをしやすい僕でも、一発勝負のテストとは違うから、じっくり取り組める。間違ったら直せばいい。数学の本質的な面白さを僕はそこに見出したのです。

時には乱暴かもしれない四捨五入 1票の格差に注目したきっかけは

 高橋先生は政治的な分野の統計学が専門でしたが、僕は社会階層や不平等の研究を主に行っています。なかでも、5年ほど前から研究を進めているのが選挙における1票の格差です。きっかけは、統計学の授業をしていた時。学生にパーセンテージを出す課題を与え、勉強のためアナログで計算をさせていました。その中に真面目な学生がいて、パーセンテージの合計が100%にならないのだがどうしたら良いかと聞いてきたのです。普段、僕たち研究者はパソコンで計算しますから、合計は自動的に100%になります。アナログで計算するとそんなこともあると対応を考えつつ、文献を読んでいると、様々な意見があることが分かったのです。あるがままの数値で良いとか、100になるよう操作すべしとか。そのうちの1冊に、この問題は選挙における1票の格差に通じると論じられていて、これは面白そうだと直感しました。

 なぜ、個々のパーセンテージを求め、それを合計すると100%にならないのか。これは四捨五入の加減があるからです。単なる計算上の端数ならまだしも、定数100である議員の数が99人になると、人生を狂わされる人が出てきます。奨学金なども同じ。本来なら2人もらえるところが、四捨五入の加減で今回の割り当ては1人になりますと言われたら、やはり人生が狂います。予算などもそうです。千円の0.1%は少額ですが、億単位の0.1%は大金。1票の格差が出ないよう、数式を用いて案分することは、不平等を限りなく少なくすることにつながるわけです。

誰もが平等を感じるには?モノの見方を統計学で知る

 同じ研究はアメリカでも行われており、アダムズ方式、ジェファーソン方式など、提唱者の名で呼ばれています。5種ほどありますが、いずれも格差のとらえ方が少しずつ異なります。日本でも、研究者や弁護士が声を上げ続けた成果が実り、国や行政も統計学の考え方を用いて、様々な格差を是正していこうという動きが見られるようになってきました。まだ端緒ではありますが……。

 統計学の醍醐味は、数式を作った本人でも結果が予測できないこと。聞き取りなどで得たデータをコンピュータに入力し、導かれた結果を見て「へー」と驚くこともあります。何かの方策を考える際も、結果を見て、痛み分けはあるものの平等になるならGOとすれば良いし、痛み分けがあってしかも平等にならないなら止めれば良いのです。

 絶対正しいと思われていることも、違う角度から見ればそうではないこともあります。統計学は、モノの見方のストックを増やすことができる、ユニークな学問だと僕は思っています。高校時代、機械的に数字をいじらされる行列に僕はキレてしまいましたが、社会を分析する統計学に出合って初めてその面白さを理解しました。数字の持つ意味や法則の背景が分かったからだと思います。それこそがアクティブラーニングではないでしょうか。

[経歴]
1965 年、北海道生まれ。父の仕事の関係で、東京・埼玉・群馬などで幼少期を過ごす。
東京都立大学(現・首都大学)大学院社会科学研究科博士課程満期退学(1994年3月)、金沢大学文学部助手(1994年4月~1997年3月)を経て、1997年4 月より佛教大学社会学部専任教員となる。専門は、数理・計量的な方法を用いた、社会階層や政治についての分析。直近の10年は方法論に特化した研究を行っている。趣味は音楽鑑賞、ドライブ。妻と息子の三人家族。

(佛大通信2018年6月号より)

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