通信教育クロストーク

2018年10月29日
コーヒーが世界を変える、未来を創る。

KYOTO TIME TRAVEL
伝統をつなぐ・未来をつくる・京都をめぐる

カフェタイムは京都で生まれたコーヒー豆専門店。生産者から直接、本当に品質のよいコーヒー豆だけを仕入れて自家焙煎した新鮮で美味しいコーヒーだけを販売している。今回は、コーヒーが大好きという仏教学科の伊藤真宏先生がカフェタイムのオーナー・糸井優子さんを訪ねた。

カフェタイム
1985年、京都市南区吉祥院に喫茶店「カフェタイム」をオープン(有限会社タイムズクラブ設立)。その後、コーヒー豆の販売店を近くに開業する。現在は、久世店、嵯峨店、亀岡店の3店舗で新鮮なコーヒー豆を販売している。業務内容は、スペシャルティコーヒー生豆の買付・卸販売、焙煎豆の小売・卸販売、開業支援・バリスタトレーニング。生産者との直接取引で適正な価格で買い付けることにより生産者に正当な利益を与え、安定した生産と供給体制を作っている。

糸井 優子(いとい ゆうこ)
有限会社タイムズクラブ代表。京都市生まれ。京都府立大学卒業。1985年に有限会社タイムズクラブを設立、喫茶店を経営する。2003年、共同買付グループ「C-COOP」を設立し代表に就任。2004年よりACE(cup of excellence)国際審査員。現在、IWCA(国際ウィメンズコーヒー協会)日本支部会長、SCAJ(日本スペシャルティコーヒー協会) ローストマスターズ委員会元委員長、WCR(world coffee research)サポーターなどを務める。

伊藤 真宏(いとう まさひろ)
仏教学部仏教学科准教授。
佛教大学文学部仏教学科卒業、佛教大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得満期退学。専門分野は、浄土学、日本仏教文化史。研究テーマは、法然思想の解明と法然関係文献の発掘、浄土宗歴代(特に三祖良忠)の思想研究、日本仏教における信仰受容の研究。主な著書・論文に『法然上人のお歌』(浄土宗出版室)など多数。

カフェタイムが扱うコーヒーは、栽培から選別、焙煎まで、すべての工程が世界基準に基づいて管理された「スペシャルティコーヒー」と呼ばれる高品質なもの。対談は、大きなイタリア製の焙煎機のある亀岡店ではじまった。

公正な審査で「正しい」コーヒーを見極める

伊藤:店に入って来ると、すごくいい香りですね。私はコーヒーが大好きなんですけど、その場で適当なものを選んでしまったりして、そこまで凝ってはいないのが現状です。

糸井:お客様は、ご自分のお好きなように、お好きなものを選んでいただいたらいいと思います。私が教わったのは、コーヒーは美味しいか不味いかではなくて、正しいか正しくないかということ。せっかくいいコーヒー豆が獲れても処理が雑な農園もあるし、経年変化で駄目になることもあるし、栽培から仕入、輸送、焙煎、抽出まで、すべての工程を検証することで、美味しいコーヒーになるんです。

伊藤:それが「スペシャルティコーヒー」ですね。

糸井:2000年ぐらいからコーヒーに点数をつけるようになって、コーヒー豆の品種から栽培、処理、収穫、保管、焙煎、抽出まで、それぞれの工程を検証するようになりました。それまでは味の評価というものがなくて、認証コーヒーにしても、オーガニックコーヒーにしても、産地の標高とか農薬を使っているかいないかの評価だけでした。コーヒーに対する評価が混在しているので、すべてをすっきりさせようということですね。伊藤:糸井さんは、スペシャルティコーヒーの中でも最高の称号とされる「Cup of Excellence」の国際審査員もされているんですね。

糸井:2004年から審査に呼んでもらうようになりました。審査会は5日間に渡って、香り、味の透明感、甘さ、爽やかさ、重み、滑らかさ、風味といった評価ポイントがあります。利き酒と同じように、点数をつけるんです。「Cup of Excellence」の審査が素晴らしいのは、ブラインドテイスティングであること。見栄えに左右されないように粉だけを見るんです。お湯を入れて味を審査しますが、第1次、第2次審査があって、最後にトップ10だけの審査をします。最終日には、生産者さんとミーティングをして、その夜に表彰式です。

伊藤:ブラインド審査で、どんな生産者にもチャンスがあるのは、いいことですね。

糸井:えぇ、本当に誰が1位になるのかわからないですから、表彰式では感動して泣きますね。生産国の中には貧しい国もあって、「どうして1位になれたと思う?」と聞くと、「神様のおかげだ」と。すごく努力したのでしょうから。かなり特殊な例ですが「何か秘訣はない?」と尋ねると、コーヒー豆を乾燥させる台があるのですが、「僕は自転車のチューブで台を叩く。すると乾燥した豆がよく飛ぶんです」と言うんです。大きい会社なら、立派な乾燥機を使うところ、チューブを使って独自の工夫をしていたのです。

伊藤:それは職人技ですね。

糸井:それで「賞金は何に使いますか」と聞くと、「僕はここに来るためにお金を借りたから、村の人にお金を返す」と言って。本当に、そういう無名だった産地の小さな農家の人にも、チャンスがあることがいいと思います。出展料も無料ですし。中にはコーヒーが一番の輸出品の国もあって、コンテストには大統領や大臣が来たりします。私は2003 年に、ちゃんとした値段で買って、生産者に持続してもらおうと「C-COOP」コーヒーの共同買付グループを作りましたが、その仲間も増えてきたし、生産者との交流も生まれて、仕事が楽しいです。

もともとは喫茶店からはじまったカフェタイム。糸井さんがコーヒーに関わるようになった原点は、何だったのだろう。

コーヒーが持ついろいろな力

伊藤:このお仕事をはじめたのは、やはりもともとコーヒーがお好きだったからですか。

糸井:私は生まれが嵯峨なので、周りに喫茶店がいっぱいあって15歳ぐらいからアルバイトをしていたんです。大学生のときも民宿で働いたり、喫茶店で働くのがすごく楽しくて。大学では、住居学を学んでいたのですが、すごくいい先生に出会って女性学に興味をもちました。社会的なこともしっかり教えていただいて、車椅子で町に出たり、楽しみながら学びました。卒業後はフリーターで、スキー場で泊まり込んだり、飲食業をずっとやっていたんです。母親が、1回は会社員になって社会のことをわかれというので会社勤めもしたのですが、毎日、嫌で嫌で(笑)、1年ぐらいで辞めてしまって。

伊藤:会社には収まりきらなかったんですね(笑)。

糸井:で、親も年を取ってくるし、なんとかしようと30歳ぐらいのときに喫茶店をはじめたんです。自家焙煎の第1ブームが来たので、歩いて2、3分のところにコーヒーを販売する店を作ったのですが、そんなに近いのに喫茶店では見たことのない人がいっぱい来るのですよ。それで、コーヒー豆を買う人と飲みに来る人は別なのだということがわかりました。現在の久世店は、当時、周りに何もなくて安かったので、2階に住んで、1階で店をすることにしました。1年後ぐらいに神戸の大震災があって、同業者とコーヒーを持って何回か慰問に行ったのです。その中の一人が同級生を連れて来て、その人がいまの夫です。

伊藤:そうなんですか。震災のとき、コーヒーを持って行かれたら、皆さん喜ばれたでしょうね。

糸井:えぇ、一人の男性が「せっかくだからジャズをかけよう」と言って、カセットで音楽を流してくださったり。あのときのことを思い出すと、いまも涙が出そうです。黙々とコーヒーを淹れてくださる奥さんがいて、「もしかして、喫茶店をしていらしたの?」と尋ねると、そうで……。いまだに胸にこたえます。

伊藤:コーヒーは、気持ちを癒しますよね。

糸井:私の友だちが、「同じ500円を出したらラーメンも食べられるけど、コーヒーは、お腹は膨れないけれども価値がある」と言っていましたが、本当にその通りだと思います。

コーヒーと関わりながら、いろいろな交流を広げていく糸井さん。これから、目指すものは?

社会的な活動を続けていきたい

伊藤:いま、注目している生産地やコーヒーはありますか。

糸井:昨年、ペルーへ行ったのですが、すごく長い準備期間をかけて、やっと「Cup of Excellence」がはじまりました。ペルーの自然が好きなシアトル出身のアメリカ人がいて、よくペルーへ行っていたところ、シアトルではコーヒーが良く飲まれるので、現地の人にコーヒーを売ってくれと頼まれて、結果的にペルーに住みついて輸出できるようなコーヒー豆の生産に取り組んだのです。その人の苦労をずっと見ていて、去年は初めて「Cup of Excellence」の審査会に参加したのですが、ペルーらしいジューシーで、和三盆を重ねたような甘みのある、きれいな味のコーヒーがたくさん入賞していました。

伊藤:コーヒーだけで、そんな味がするんですね。

糸井:いいお茶を飲んだ後のような後口です。すごく感動しました。

伊藤:今後は、どんなふうにコーヒーと関わっていかれるのでしょうか。

糸井:コーヒーの取扱い量や取引先の件数よりも、信頼関係を大切にしたいですね。いま、インド政府が生産地である村を表彰するようになって、助言を求められたり、また、IWCA(国際ウィメンズコーヒー協会)という団体の日本支部長も務めています。この団体は生産国では増えてきているのですが、消費国では日本が最初。社会的な活動はずっとしていきたいなと思っています。30 年かかって、やっとここまで来ました。

伊藤:今日は、コーヒーを中心に、いろんな世界の話が聞けたような気がします。美味しいコーヒーをご馳走さまでした!

 

(佛大通信2018年4月号より)

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