佛教大学通信教育課程

通信教育クロストーク

2018年07月14日
伊部恭子研究室(社会福祉学科)

「学びのサプリ」
社会福祉学部 社会福祉学科  教授 伊部 恭子(いべ きょうこ)


荒れていた中学に身を置き後に考えたこと

  スクールソーシャルワークに関心を抱いたきっかけは、通っていた中学校が校内暴力やいじめなどで荒れていたことが背景にあったからだと思います。そうしたなかで、私の担任の先生は、子ども同士のトラブルが起こりやすい休み時間なども教室に居て一人ひとりに声をかけてくださっていたのが印象的でした。今に言う“生きづらさ”を抱えていた時代でした。
 高校に進学してからも、学校に通うことのしんどさや、進路や親子関係で深刻な悩みを抱えるなど、特有の不安定感やモヤモヤ感を抱える思春期に、私たちの声を聞いてくれる大人はいないのかと思っていた頃、スクールソーシャルワーカーの存在を知りました。その分野の草分け的存在である、山下英三郎氏を知ったのも同時期と記憶しています。
 大学でスクールソーシャルワークを学びたいと思ったのですが、めぐり合うことができず、福祉学科で、社会的養護における子どもや若者について学ぶことに。社会的養護との出会いを授けてくださったのは恩師の松原康雄先生です。児童相談所での長期実習も経験させていただきました。その経験から学んだのは、貧困など様々な生活困難のなかで育つ子どもたちの大変さは確かにある一方、「可哀そう」と思うのも偏見のひとつだという事。その上で、社会のなかで生じている格差をどうすれば良いのか考えるようになりました。

 公務員経験が視野を広げた 育ててくれた恩師との出会い

  実は、大学院1年目に休学し、福祉職の公務員として老人福祉センター(当時の名称)で働きました。そのまま働きながら大学院での研究も続けるつもりだったのですが、実際には両立できず、1年で退職しました。短期間でしたが、人生の大先輩であるお年寄りの方々に、戦争の経験を含め、様々なお話を聴かせていただいたことは今も心に刻まれています。
 大学院に戻った私は、“教えの両親”とも言うべき2人の先生に出会います。古川孝順先生と窪田暁子先生。
 本当に鍛えていただきました。「甘い考えで研究はできない。研究課題と研究方法と研究条件を見極めるように」とご指導いただいたこともあります。私は修士論文を書くため、社会的養護のもとで育つ子どもたちの聞き取りがしたかったのですが、「その研究方法には無理がある」という指摘を受けました。
 今から考えると「論文のために話を聞かせて」と顔に書いて訪れる人間に子どもたちが話してくれるわけがないであろうことは理解できるのですが、当時は悔しくて…。古川先生からは新たに、知りたいと思っていることをまずは問題意識として醸成させ、文献で探り、歴史的に検証してみるようにアドバイスをいただきました。難しい作業でしたが、歴史的、社会的な背景をとらえることの意味や重要性を学びました。

 施設退所後の人生について聞き取りを重ねて寄りそう

  例えば、児童養護施設で生活する子どもたちの高校進学費に関する制度(特別育成費)が創設されたのは1973 年なのですが、この頃は全国の子どもたちの高校進学率は9 割に達しています。当時、児童養護施設の子どもたちの高校進学率は3 割を超える程度。この格差が生じているのは何故なのか、社会的養護のもとで育つ子どもたちに高校進学を保障するためにどのような課題を克服しなければならないのか、制度や政策のあり方を含め、考えさせられました。
 京都で教員になってから、様々な縁や協力をいただき、社会的養護を経験した若者の聞き取り、いわばライフヒストリーを伺う調査を行っています。様々な生きづらさや生活困難を抱えるなかで、何がその人の支えになっているかに着目すると、やはり“人”であると感じます。見ていてくれた人がいる、話を聞いてくれた人がいる、その方の“生”を支えてくれる人の存在の大きさに、心を打たれることが多くありました。
 社会的養護の支援は3世代ぐらいのライフスパンで行っていかねばならないと思います。子どもたちが社会的養護の制度を離れた後、そこでぷっつりと支援が終わるのではなく、20 代、30 代、40 代といったライフステージにおいて様々なつまづきがあるかもしれない。そこを見通した支援をしていく覚悟が私たちの社会で必要ではないかと考えています。恩師だったら、どう考えるだろうか、時々ふりかえることがあります。

 学びの処方箋

 普段は個々に学ばれていると思うので、スクーリングなどの機会をとらえて、積極的に交流してほしいと思います。近年、卒業リポートを制作されない方も多いですが、自分の中の問題意識を整理したり、研究をまとめる機会でもあります。時間がかかっても良いので、ぜひ達成感を味わっていただけたらと考えています。

[経歴]
北海道出身。2001年度、佛教大学社会学部社会福祉学科専任講師。現在に至る。専門は、児童福祉論、社会福祉援助論(ソーシャルワーク論)。社会的養護における当事者の生活と自立を支える支援に関して、当事者への生活史聞き取りを通して研究を進めている。趣味は散歩の時の小さな発見。

(佛大通信2018年2月号より)

TEL : (075)491-0239
受付時間 9:00~17:00(13:00~14:00を除く。木・日・祝日休み)
ページトップ