佛教大学通信教育課程

通信教育クロストーク

2017年11月21日
塩満卓研究室(社会福祉学科)

「学びのサプリ」
社会福祉学部 社会福祉学科 講師 塩満 卓(しおみつ たかし)


統合失調症者との出会い 恩師との出会いから学びを深める

 明確な目標を持たずに大学に通っていた時、同じ下宿の住人が統合失調症を発症されたのです。会えば挨拶を交わし、時には「郷里から送ってきたリンゴです」とおすそ分けしてくれるような彼が、ある日突然「自分の悪口を言うてるやろ」と怒鳴り込んできたのです。驚きましたが「まぁコーヒーでも」とその時はなだめて帰ってもらいました。ところが、何回か同じようなことが起こり…。ある日、寝入りばなの深夜に起こされたため、私もアタマに来て、取っ組み合いのケンカになりました。騒ぎを聞いて大家さん達が起きて来て、事情を聞くうち何人かが同じ被害に遭っていたことがわかりました。ちょうどその頃、精神衛生学のテキストに“精神的不健康状態”について書かれたページがあり、彼はまさにこれに当てはまることに気付くと同時に、それまでは自分と変わらないように見えた人がなぜ急にそんなふうになるのかが不思議で、この件をきっかけに精神障害者について興味を持つようになりました。
 母校である日本福祉大学は3回生で専攻を決めるのですが、当時、日本における精神医学ソーシャルワークのパイオニア的存在である、坪上宏先生が教鞭を執っておられました。現在の日本精神保健福祉士協会の発足時の事務局長を務められた方でもあるのですが、そのゼミに入りました。先生は、帰る所がない精神障害者の宿泊施設としてソーシャルワーカーたちが立ち上げた「やどかりの里」にも関わっておられ、実践を研究する「やどかり研究所」の所長でもありました。そんな方に教えを乞うことができた私は、精神障害者問題にはまっていきました。

福祉の担い手のバトンをつなぐ 福祉現場から教育現場へ

 卒業後は、実習でお世話になった精神病院にソーシャルワーカーとして勤務。統合失調症の患者さんと向き合いました。
 統合失調症の急性期症状は短期間です。急性期を乗り越えた患者さんは社会参加を目指します。作業所も無かった時代、私の仕事は、仏壇製造や養鶏といった病院近辺の地場産業の事業所に協力事業所になってもらい、働く場を確保することでした。でも、多くの統合失調症の方は、内向的で、過緊張傾向のため、疲れやすいのです。午前中だけの勤務が、終日勤務と同じくらい疲れるらしく、すぐに「しんどい」と言い出します。駆け出しの頃の私は、よくわからないから「何を甘いことを…」と言い返していました。病気と障害の併存した「障害者」と理解できていなかったのです。
 もうひとつ忘れられない出来事は、3人の障害者と初めてグループワークをした時のことです。私が席を外している間に、初対面の3人が、屈辱的扱いを受けた「保護室」(隔離部屋)の入院体験を笑いあっていました。「こんなこと、話せるのはここだけ!」と、実に爽やかな表情でその理由を話してくれました。専門職の支援だけはなく、仲間同士の支え合いが、社会参加には不可欠だと学んだ瞬間でした。
 実践は、かつて「是」とされていたものが、次の時代に「非」とされることの連続です。統合失調症には、友達は出来ない、と言われていましたが、今ではそんなことは誰も言いません。佛教大学との縁をいただきましたので、現場で学んだことを次の福祉の担い手に伝えたいと思いました。

当事者と家族それぞれの自己現実とワーカーの関与のあり方を探究

 ソーシャルワーカーの熟達には、一定の筋道があるのではないか。そんな問いが卒業生との関わりから生まれました。就職して間もない頃は、個別事例に関することが悩みです。もう少し経験を積むと、当事者を取り巻く役所や病院、施設等、地域全体のケアシステムの不備が気になります。このように経験を積むことで見える世界が変わることを可視化してみたいと思いました。新人時代は、「援助行為の正解探し」に必死で、中堅になると「関係機関とのチューニング」の時期と名づけ、理論の精緻化を目指しています。
 最近は、家族がケアラー役割を担い続けるのはおかしいのではないか。という問いから研究をしています。世帯を分けて暮らし始めた当事者や家族へのインタビュー調査が主です。今、見え始めているのは、ソーシャルワーカーが関与している事例が少なくないということです。ひょっとしたら、価値実践を体現するワーカー像をリアルに描けるのではないかと期待しています。

[経歴]
鹿児島県出身。1985 年、日本福祉大学卒業。
2009 年日本福祉大学大学院社会福祉学研究科修了。社会福祉学修士。
大学在学中に実習でお世話になった精神病院に就職し、保健所、精神保健福祉センターと、精神科ソーシャルワーカーとして21 年間勤務する。
2006 年から佛教大学福祉教育開発センター実習指導講師、2016 年から社会福祉学部講師。
趣味は落語とスポーツ観戦。

(佛大通信2017年9月号より)

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