通信教育クロストーク

2017年10月07日
免田賢研究室(臨床心理学科)

「学びのサプリ」
教育学部 臨床心理学科 准教授 免田 賢(めんた まさる)


病気がきっかけで心理学を知る 心を読むことに魅せられて

 中学2年生の時、急性腎炎に罹り、2カ月間は天井を見て安静にするようにお医者さんに告げられました。同時に、心理的なものも病気の一因かもしれないと言われたため、ヒトの心に興味を持ち、本を探して読み始めました。折しも、心理学者である多湖輝さんが書かれた『読心術 現代科学が産んだ新兵器』(光文社)という1冊がベストセラーになった頃です。当の多湖先生が私の故郷に講演に来られたことも手伝い、クラブ活動における人間関係などにも悩んでいた多感な時期の私は、心理学に夢中になったのです。
 多湖先生は、ヒトの行動や表情は心のサインで、例えば瞬きや目の動きといった何気ない仕草からでも心理がわかると書いておられました。私はそんな心の不思議に大感動。その時点で自分の進路を決め、以後まっしぐらに進みました。
 ところが、大学の心理学科における学びは私を少々戸惑わせました。当時は、私が学びたいと考えていた、ヒトの心の動きを探求してカウンセリングや援助をする臨床心理学より、哲学的に考察し科学実験からデータを導き出す基礎心理学が主流でした。ヒトの心は複雑で、直接扱うことは難しいので、できるだけ単純化した状況で調べていくべきという立場です。例えば、赤の刺激と青の刺激に対する反応から、どんなデータが得られるかという実験を繰り返すのです。
 その状況に少しがっかりした部分もありましたが、この基本は大事でした。基礎心理学を学ぶ一方、臨床心理学研究会というサークルに属し、教育学部や福祉関係の他学部生とも交流を持つことで、自己学習を重ねていきました。

大病院で子どもや青年に寄り添い認知行動療法に邁進

 大学院修了後、患者さん600名、職員300人を擁する、西日本最大の精神科単科病院に就職。担当していた患者さんは、中・小規模の病院で比較的重症と判断されてきた子どもから青年まで。多い時は一人で35人ぐらいを診ていました。
 実は、就職する前は大人を診たいと思っていました。でも、子どもの患者さんは心理テストやカウンセリングを行ううち、少しずつ変化していく。それがモチベーションになりました。
 基礎心理学の学びも役立ちました。恩師である山上敏子先生にいただいた「きちんと診たてて丁寧に治療すれば、患者さんは良くなりますよ」との言葉どおり、正確に取ったデータを基に症状を診たて、治療に反映させることができた背景には、大学での学びがありました。例えば、認知行動療法というアプローチ。外出できないとか、モノに触れない、動けないといった、それぞれの症状を見極め、まずは適応できる方法がないかと探ります。その行動内容のデータを正確に取り、例えば、手洗い回数が多い子どもの回数を少しでも減らす方法が見つかれば共有するなどして、治療やカウンセリングを行うのです。そんな日々を送るうち、16年もの月日が過ぎていました。
 就職した頃、臨床心理士の資格審査・認定がスタート。人材育成が急務になったこともあり、私の臨床経験を生かし、大学で教えてはどうかという話が舞い込みます。私自身の学生時分と逆転したかのように、臨床心理学にスポットが当たる時代になっていたのです。

ヒトには力が備わっている それを引き出すために

 佛教大学に来て11年が経ちました。多くの卒業生が巣立ち、あちこちの病院や施設で活躍してくれています。教え子たちとともに「京都ペアレントトレーニング研究会」も立ち上げました。この会は、発達障害児をもつ親御さんに、子育ての方法を勉強してもらってご家庭に合わせて実施していただくことが目的です。情報なども共有することで、精神的にも楽になれるように援助しています。
 また年に1回行う「ティーチャートレーニング」は、佛教大学に来てからスタートさせたプログラムです。先生方は科目を教える高い教育技術をおもちですが、生徒の問題行動や反抗的な行動への具体的な対応は、先生方の個人技に頼りがちになります。どうすればストレスの少ない教育環境が実現できるか、先生同士でも話し合っていただき、フィードバックして、プログラムの精度を年々上げています。
 ヒトは能動的です。あらかじめ備わっている力をどう引き出すかを、臨床心理学で探りたいと思っています。

[経歴]
石川県能登に生まれる。関西学院大学大学院文学研究科心理学専攻修了後、国立病院機構肥前精神医療センターで心理職に就く。思春期の精神障害、発達障害を中心に外来、入院の治療と査定業務に携わる。岡山にある吉備国際大学社会福祉学部臨床心理学科を経て、2006年、佛教大学に奉職。

(佛大通信2017年8月号より)

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