通信教育クロストーク

2017年10月10日
BUまなび隊inOSAKA Vol.3誌上講義 

佛教大学シンポジウムが、2017年1月28日、大阪市中央公会堂にて開催されました。第2部のパネルディスカッションでは、明治大学文学部・齋藤孝教授、佛教大学・田中典彦学長、読売新聞東京本社専門委員・松本美奈氏に、「教育と未来」をテーマに、活発な議論を交わしていただきました。今回は2回目になります。

シンポジウム「教育と未来」 パネルディスカッション02
生きる力を未来へ託せるか

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アクティブに学ぶ

毛利:大学はどう変わっていくのか。理想の大学像、未来の教育についての調査も読売新聞では行われているのでしょうか。

松本:取材をするたびに、大学側は「高校の尻拭いをさせられている」と言います。学ばない子を委ねられて高校のやり直しをしなければならないと。ある大学では、公文を取り入れています。それもアリだと思いますし、尊重します。

 その一方で、大学がそう言う前に、小・中・高校生を教育する人をきちんと育ててほしい。教員養成課程を持っていない大学はほとんどありません。そこできっちりした文章が日本語で書ける。自分の頭を使って考えられる。子どもを育てられる先生を育ててほしいと思っています。

 アクティブラーニング、つまり自ら問い、学び、考えられる人を育てられるのは、自ら問い、学び、考える先生です。パッシブラーナー、つまり人から言われたことをハイハイと聞いて、インターネットから流れてくる情報に丸ごと食いついて、それに従うような人は先生にはなってほしくない。大学が磨き上げて、アクティブラーナーにして社会に出してほしい。

 悲しくなる現実もあります。例えば今年の1月。ある自治体の教員実習を見ました。そこで教育長が新聞批評を始めました。私は「来たな」とワクワクしながら待っていた。その場にいる50人以上の先生たちに「新聞読んだよね」と聞くと、一人しか手が挙がらなかった。教育長も驚いて、「一億総劣化社会という話をしてるのだけれども、一億総白痴化という、昭和30年代に流行った言葉を作った大宅壮一は知っているね」と聞くも手が挙がらない。さらに、「年末に出た中教審の答申は読みましたよね」と聞くと、それもゼロだったのです。

 社会に関心がないことは社会に呑まれるとイコールです。理不尽、不条理、ブラック企業、セクハラ・パワハラ、何でもありの社会にノーと言えない、疑問も持たない大人を育ててはいけない。逆に、大学にはそれに気づかせる教育をしてもらいたいです。

 また、大学には大人の、25歳以上の学生を入れてもらいたい。これだけ少子化、高齢化、生涯学習が言われながら、日本の大学はまだ18歳人口のマーケットにしがみついている。だから、冒頭に申し上げた、学部名称のキラキラネーム化が起きるのです。また、授業を受講できる柔軟な時間割を組んでほしいし、何年かけても卒業できるような、自由で柔軟なカリキュラムをつくることで大学はもっと豊かになります。ちなみに、25歳以上の学生の割合が少ないのは先進国ではおそらく日本だけ。OECDの調査によると、入学時25歳以上の学生の割合は20~40%です。ところが日本の大学は0.07%でした。目の肥えた大人相手の授業は、緊張感もあり面白いはずです。皆さんも、子孫を入れる大学を豊かにするため、ご自身がモンスター学生になって大学を変えてほしいと思っています。

毛利:齋藤先生は、生涯学習を含めまして、大学の果たす役割、これからの教育はどのようにあるべきとお考えですか?

齋藤:自分がこの社会を支えていく、当事者意識が一番大事だと思いますね。新聞は、当事者意識を育てるのに良い材料。新聞をベースにすることで、知の基地みたいなものができ、当事者意識も育つのではないでしょうか。

 かつて、夜間の授業を抱えていましたが、社会人がいると授業に緊張感が出るというのは本当にその通りです。そうすると、周りの学生も良い刺激を受ける。エイジフリー、大学に社会人がいるのが当たり前の風景にしていくことが、学生にとっても教師にとっても刺激になるのかなと思います。

 活字の大切さも忘れてはいけません。インターネットにも活字はありますが、本には本の良さがある。何が良いかと言うと、著者の人格がそこにある。著者の思考に寄り添える。非常に頭の良い、精神の強い人に寄り添うことはすばらしい訓練になる。新聞で社会の感覚、そして本で人格的な強さを身につける。活字教育が文明の基本になるのかなと思います。

毛利:田中学長。これからの社会に必要な教育は何でしょうか?

田中:現代の大学は、学生から社会人へのつなぎに位置せざるを得ないし、実際にそうしています。したがって、今までどおり、人間力、自らを生かしながら生きていける、学んだ知識を生きる力に転換できる知恵を授けていきたい。

 難しい数学Ⅲの微分積分。物理もですが、私たちはトレーニングのためにたくさん知識を学びましたが、実際に生きていく上で使う知識は限られる。教育はある意味、頭を回転させる、知識量を増やすトレーニング。実際に生きていく時、その知識を全部使うのではなくて、選択された知識が生きる力に転換されていく。これが知恵です。佛教大学は「転識得智。学んだ知識を生きる力へ」を教育の方針に据えているわけです。

 本学でも、カリキュラムの改定を行っております。その根本に据えているのは日本語です。さらに、アクティブラーニングをどう取り入れるか。もう一つの問題は、学生自身が今なぜこれを学ぶのかがわからないことです。自分で自分の勉強の道筋をつけて選ぶのがこれまでの大学でしたが、今の子どもたちはそこまでいってない。そこで、なぜこの学年でこれを学ぶか、そして次に何が来るか、自分で確認しながら成長する仕組みを持ったカリキュラムがこれからは欠かせないと思っています。

 25歳以上の学生が多くなることは大いに結構なことで、本学は通信教育を60年行っています。また、地方創生を60年前からやっているのが通信教育です。つまり地方におられて、通信教育で学んでいただいて、その地域で生きる道を見出し活躍していただく。これが大きな特色だと思っています。

 松本さんが言われるように25歳以上の学生を増やすためには社会構造を変えねばなりません。高等学校卒業後、一旦社会に出て、人の生きざまを経験する。そこで気づいた疑問を解決する場として大学があっても良い。特に通信制のある大学がその役目を果たすことも大事かなと思いました。

松本:私が25歳以上の学生をと話すもう一つの理由は、日本にはびこる年齢主義の打破です。日本では、6歳になったら小学校に入り、12歳になったら中学校、15歳で高校、18歳になったら大学に入らなければいけない。そうすると以降もずっと年齢主義になる。何歳までに結婚、出産。何歳までに部長にならなくては、というような年齢主義を打破したい。

 1回高校出たけど、やっぱり学びが必要だから大学に行こう。就職しても何か足りないなら大学に戻ればいい。「明るく退学、元気に復学」、これは矢野正和先生の言葉です。アクティブラーニングとはICT や議論等に限られたことではない。「私は学ぶ、自分で問うて学ぶ」、これがアクティブラーニングです。

毛利:5年後10年後の佛教大学はどうなっているでしょう?

田中:仏教は、諸行は無常、移り変わりの中にあると教えます。つまり全ては放っておいても移り変わります。放っておいても無常ですから何かになっていく。それに意志を加えることによって、十分に目指すところに転換していくのです。本質を見極めて、そこから来るアイデアを形にする。それさえあればどんなことも実現できると思います。

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皆で共に学ぶ、育つ

毛利:学びたい気持ちを大切に、声を出して実行に移し、価値を見出していきましょう。最後にメッセージをお願いします。

松本:先ほどから質問力と申し上げていますが、「?」ハテナ字を逆さにすると、何かに見えません? 釣り針です。ハテナはひっかけるモノ、フックです。与えられた知識は右から左に抜けますがフックをかけた時に、それは自分のものになります。

 今、学びが変わろうとしています。それは予期できませんが、昔から未来は予期できなかった。とんでもないスピードで変化していく中では、待っているだけでなくフックをかけること。そういう時代に私たちは生きていることを忘れないでください。最後に、私の大好きなアフリカの諺で終わります。「早く行きたければ一人で行け、遠くに行きたければみんなで行け」。変化の時代、みんなで手をつないで遠くに行ければと思います。

齋藤:適応力が大事ですね。状況に応じてしなやかに対応していく。仏教の諸行無常のような、やわらかい知識をもって落ち着いて対処していく。いつも時代は先行き透明。急に不透明になったわけではありません。あわてずに適応していけば良い。適応力とは学ぶ力。学ぶ人生が祝祭であれ、ということです。

田中:人は、時代の精神文化の中で育ちます。その精神文化を支えているのは皆さんです。だから、18~22歳の教育問題ではなく、国の在り方、人生の在り方ととらえねばなりません。

 我々の大学では「教育」ではなく「共育」と書きます。学生さんを中心に、教員、職員、みんな共に育っていく。皆さんの力で教育が変わり、社会の常識が変わっていくこともある。学生だけのことではない、そこにお座りの“私”のことなのですから。

(佛大通信2017年8月号より)

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