佛教大学通信教育課程

通信教育クロストーク

2017年09月04日
コーヒーの香りにいつかの風景がまた見られる場所

KYOTO TIME TRAVEL
伝統をつなぐ・未来をつくる・京都をめぐる 

石畳の道が続く、祇園白川。芳しいコーヒーの香りに誘われて、たどりついたのは『やまもと喫茶』。地元の人々や観光客に愛される、憩いの空間である。今回は、この店の常連でもある仏教学科の川内教彰先生が、店主の山本大樹さんに京都に根付く喫茶文化について伺った。

 

山本 大樹(やまもと たいき)
『やまもと喫茶』オーナー。群馬県生まれ。東京に住んでいる頃、国内外を旅行し、たまたま訪れた京都で、前田珈琲の社長と出会う。前田珈琲で3年修業した後に独立。祇園白川で長く営業していた喫茶店『ヒュッテ』の廃業した後を受け継ぐ形で、『やまもと喫茶』を開業。

川内 教彰(かわうち きょうしょう)
仏教学部仏教学科教授。佛教大学文学部仏教学科卒業。大谷大学文学研究科仏教文化専攻博士後期課程満期退学。研究課題は、天台浄土教思想史、法然上人遺文の研究、女性と仏教。大乗経典に示された思想が、実際の修行の場や信仰の世界で、どのように活かされていったのかを探る。

『やまもと喫茶』の店主、山本大樹さんは36歳。京都生まれでもなければ、特に喫茶店に興味があったわけでもない。それなのに、ここ祇園白川で喫茶店を開くことになった理由とは。

前田珈琲での修業時代

川内:私がこちらに来るようになったのは、半年ぐらい前からで、この近くに住むようになってからです。『やまもと喫茶』の開業は2011年ということですが、どんな経緯があったのでしょう。

山本:もともと喫茶店をする気があったわけではなかったのです。20代の頃は東京に住んでいて、建築現場で半年働いては海外へバックパッカーで旅をしていて、25歳の時には自転車で日本を巡っていました。たまたま京都に来たとき、知り合いが前田珈琲の社長(前田剛氏)を紹介してくれて、東福寺に茶店を出すのに短期バイトが必要だということで、そこで1カ月アルバイトしたのが最初でした。

川内:偶然だったのですね。前田珈琲が京都で老舗ということも知らなかったのですか。

山本:はい、知りませんでした。それまで旅をする生活で、いつまでもこんなことを続けていても仕方がないなと思っていて、社長とお話をして「ええよ」の一言で、店で働かせていただくことなったのです。住む所も紹介してもらい、保証人にまでなってくださいました。この道に入ったのは、それがきっかけです。

川内:何か信頼されるものを山本さんがもっていたのでしょうね。

山本:いや、そういうこともないと思いますが。店で一緒に働く人はみんな年下で、僕は食器を触ったこともなかったし、飲食店がどう経営されているのかも知らず、まったくゼロからのスタートでした。厳しかったです。社長のお父さんである会長(前田隆弘氏)は70歳を過ぎていますが、今も中京区の本店で朝6時から店に入って、午後6時まで立ちっぱなしで働いておられます。戦後、何もない時代に喫茶店をゼロからやり始めた方で、心が普通の人とは違うと感じます。僕はマスターと呼んでいますが、マスターの背中を見ながら、こんなに飲食店がたいへんなものかと思いました。それまで、気楽に旅をしていて、苦労を知らなかったし、こんな素晴らしい人がいるのだなと思いました。

川内:前田珈琲にはモーニングに行くことがありますが、いつもお客さまがいっぱいで、入れませんよね。

山本:マスターに教えてもらったのは、難しいことはしなくても、基本だけをしっかりしていたら、それで十分だと。当たり前のことを当たり前のようにしていればいいということです。

川内:そのスタイルを絶対に崩さないことが大事なのですね。こちらの店でも、朝早くからキャベツを切っておられるし、コーヒーも注文してから淹れてくださいますよね。だから、コーヒーもお料理も本当に美味しいです。

山本:基本的には修業したことを続けていて、メニューもシンプルなものだけです。

川内:素材で勝負する店が、やはり京都では人気ですね。ステーキにしても、色んなソースはかけたりせずに塩と胡椒だけでね。それが京都の文化で、それをしっかりと醸し出している店だと思います。

『やまもと珈琲』がある場所は、もともと『ヒュッテ』という喫茶店だった。今も当時からの常連客が『やまもと珈琲』にも通い続け、この場所には喫茶店がなくてはならないのである。

常連客や周囲の優しさに恵まれて

川内:この店を開業するまでの修業期間は何年ですか。

山本:前田珈琲で修業したのは3年間です。社長が、この物件が空くということで、僕を紹介してくれました。他にもたくさん候補者がいたようなのですが、僕にやれと言ってくれて。ちょうど結婚したばかりだったので、夫婦2人でするにはちょうどいい広さだし、祇園で場所もいいし、観光客も来れば、地元の方も来るということで。

川内:今年で7年目ですね。店を開いてから、変化はありますか。

山本:開店当初はたいへんでした。「何でお店を始めちゃったんだろう」と思ったぐらいです(笑)。けっこう忙しく、注文に応えたいけれども出せず、店を回せなかったんです。穴があったら、入りたかったです。そんな状態が1週間ぐらい続いて。食器も足りなかったし、トースターの数も足らなくて、読みが甘かったのです。メニューも今よりも多くて、求められているものがわからなかったので。色々と落ち着いてきたのは、ここ2、3年ですね。

川内:前の店『ヒュッテ』には、私もよく来ましたよ。知恩院さんへ来た帰りに寄ったりして。20年前ぐらいですかね。

山本:20年ぶりに来たというお客さまもいらっしゃいますよ。椅子や床、壁は、そのままですから、懐かしいのでしょうね。もともとの常連さんを引き継ぐことができたので、よかったと思います。近所の方も皆さん優しくて、恵まれていたと思います。

オープンして7年目。ふんわりオムレツの卵サンドは、雑誌などにもよく取り上げられるようになり、すっかり名物に。京都の喫茶文化を伝えつつ、これからはどんな店になっていくのだろう。

❖昔見た風景を再現できる場でありたい❖

川内:この店の卵サンドは美味しいのですけど、そのパンをトーストしてもらうと、また香ばしく美味しくなるのです。メニューにはないので、最初は私も知らなかったのですが、ほかのお客さんが注文しているのを聞いて、おそるおそる注文してみたら、「いいですよ」と言ってもらえて!そのとき、失礼なことにパンの耳を残したら、次からはパンの耳は取ってくださいましたよね。常連の楽しみです。

山本:ええ、修業時代から「お客さまの好みを把握しろ」と常に言われてきたので。

川内:そういう気配りができる店なのですよね。会話はなくても、何か通じている。そこが心地いいのです。卵サンドは最初からのメニューですか。

山本:はい、前田珈琲にもあったのですが、少し違います。社長がよく言っていたのは、「サンドウィッチは見た目のきれいさが大事だ」と。見た目がきれいなら、美味しさも増すということなのです。

川内:常連さんは、朝のウォーキングの帰りにお仲間とお喋りしたり、ここで待ち合わせしたりと、いい時間を過ごすにはこういう店がいいのですよね。

山本:最近は若い人も増えました。インスタグラムによって、ここ2年ぐらいでガラリと変わったと思います。卵サンドやクリームソーダは喫茶店でなければ食べられないので、例えば子どもの頃、お爺ちゃんが喫茶店で注文してくれたクリームソーダを大人になってからまた飲んでみたいと。昔見た風景が、今でもあるというのは、いいことかもしれませんね。

川内:なるほど、将来にわたって、そういう場所を提供していかれるわけですね。

山本:喫茶店で待ち合わせというのも、携帯電話がある今では珍しいですからね。昔見た風景が再現できる場であればいいと思います。

川内:今日は初めてお聞きする話ばかりで、楽しかったです。ありがとうございました。

(佛大通信2017年7月号より)

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