佛教大学通信教育課程

通信教育クロストーク

2017年07月29日
池本美和子研究室(社会福祉学科)

「学びのサプリ」
社会福祉学部 社会福祉学科 教授 池本 美和子(いけもと みわこ)


安穏とした暮らしに別れを告げ 夢中になれるものを求めて

 私の経歴は研究者としては少し変わっていて、短大の英文学科を卒業。同時に一般企業の事務職に就いたのですが、日付が変わるまで帰れないのが当たり前のような職場でした。高度経済成長期でしたから、そんな会社も少なくはなく、気がつくと深夜0時を回る毎日。1年で辞め、半年後に大手光学機械メーカーに再就職しました。その会社が居心地良くて、気がつけば15年。仕事は忙しかったのですが、給料は右肩上がりに増え、欲しい物を買い、食べたい物を食べ…。ある日ふと、これで良いのかしらと思ったのです。
 そんな時、耳にしたのが「福祉」という言葉。当時の私には、福祉=弱い立場の人、障がいを持つ人の為という認識しかなく、自分の世界とはかけ離れた単語でした。福祉について知らないままで済まされるのか、ただ安穏と過ごす毎日に不安を感じ会社を辞め、半年間受験勉強をして、福祉指導者の養成を目的に戦後すぐ厚生省が設立した単科大学に36歳で入学しました。
 そもそも、現場で働く体力がないのはわかっていましたから、研究職に就くことを念頭に入学したのですが、私が知りたかった「福祉とは何か」という問いの答えには、通常の学びではたどり着けず…。生き方を変えるほど夢中になれる学びを求めて来たのに、掘り下げられないことにジレンマを感じながらも、進学で大学院を考えていた時でした。とある先生が「大学院は、教えを請いたい先生がいる所に行くべきなんだよ」との助言をくださったのです。そこから本気で、多数の論文を読みまくり、福祉史を研究されていた池田敬正先生に巡り会いました。

尊敬できる師との出会い 福祉とは何かを問い続け

 当時、池田先生は京都府立大学で教鞭を取っておられたのですが、当時の同大学には大学院がなく、困ったなぁと思っていたところ、大学院が設置されていた佛教大学に着任されることを知り、私は追いかけるように研究科に進学しました。
 かつて、日本史を研究しておられた池田先生の普遍的理念に基づく歴史研究の手法は、福祉とは何かを追い求める私の心を躍らせてくれました。先生の論文を初めて読んだ時のワクワク感、鳥肌が立った瞬間を今でもよく覚えています。修士・博士の課程を合わせた5年半を、人格者でもあった池田先生の下で過ごしました。この時はじめて、会社を辞めて良かったと実感できたのです。
 日本福祉大学の教員に着任する際も、背中を押してくださったのは先生でした。福祉研究の世界では、高齢者や児童関連が主流。福祉史では教員にはなれないと言われていたのですが、たまたま募集があり、受けたら受かったのです。にもかかわらず逡巡する私を「ひよっこもいつかは外に出て行かなければ!」と先生は独り立ちを勧めてくださった。その何年か後、ご自分が退職されるに際して、私を佛教大学に呼び戻してくださったのです。

研究者は研究の汗を流せ その矜恃で“なぜか”を考える

 歴史研究の面白さは、事実の羅列ではなく、なぜその事象が起きたのかを解釈する点。ベースには哲学や理念があるべきだと私は思います。福祉学の世界は、現場経験が必須とか、現場にあてはめられないとダメという論調になりがちなのですが、私は座学で通用しない理論は現場でも通用しないと思っています。研究することで、全体を俯瞰できるようになる。研究の汗をしっかり流して、研究者なりの勝負をするべきなのです。なぜ福祉が必要なのか。そもそもなぜ福祉という名称なのか。歴史を越えた普遍的な理念を踏まえつつ、過去から吸い上げ、考察する作業が必要なのです。
 たとえば、私の研究課題の一つである社会連帯とは、フランスで生まれた思想で個人と社会との関係を明確にしたもの。すべての人は社会の一員で、一人として欠けてはならず、そのための連帯は個々人の生存にかかわる自由を保障するものであるとの考えが込められています。これを戦前の日本では、連帯とは国家のためと理解また再解釈し、巧妙に意図的に訳していったことが史料を紐解くとわかります。そのズレは、現代で福祉を考える時にも明らか。天皇制から民主主義になった時、国家とは?責任とは?を議論しないまま今に至っているからです。けれども当時はそうせざるを得なかった背景もありました。そんな“なぜ”を考えるのが研究の醍醐味です。

[経歴]
長野県出身。1993年、日本社会事業大学卒業。
1998年、佛教大学社会学研究科社会福祉学専攻修了。社会学博士取得。
同年、日本福祉大学、社会福祉史の教員に就任。
2002年、佛教大学、社会福祉学部の教員に就任。
社会事業史学会、日本社会福祉学会、社会政策学会所属。

(佛大通信2017年7月号より)

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