通信教育クロストーク

2017年06月10日
小野田俊蔵研究室(歴史文化学科)

「学びのサプリ」
歴史学部 歴史文化学科 教授 小野田 俊蔵(おのだ しゅんぞう) 


研究対象であるチベットをずっと好きなままで居続けたい

 私が研究している学問分野はチベット学です。国際的なチベット学会も定期的に開催されていますが、日本国内では単独での講座を持つ大学はなく、仏教学や宗教学・歴史学・人類学や民族学・言語学など、それぞれの学問の伝統をベースにして、その関連領域として多くのチベット学研究者は活動しています。
 私がチベットに興味をもったのは、高校生のとき。あるチベット探検の本を読んだことがきっかけです。その本は、終戦前ぐらいに日本人である著者が蒙古からチベットへと旅行する体験記でした。こんなことが自分にもできたら面白いなと思ったのです。佛教大学へ進み、当初は仏教学として関わりをもちはじめましたが、やがて様々な課題に興味をもつようになり、現在ではチベットやモンゴルに関連した文化現象のすべてを対象として勉強をしています。
 研究者として活動をしはじめた頃に思ったことは、好きではじめた勉強なので、「ずっとチベットを好きなままで居続けたい」ということ。どの学問でもそうですが、専門家として活動していると、当初にワクワクして追いかけていた楽しさを無くしてしまう傾向にあります。私は専門家になりたいという思いと同時に、専門家になって面白くなくなるより、ずっと素人でいてワクワクしていたいと思ったのです。

興味の対象を次々と変えるとずっとワクワク・ドキドキできる

 そこで、研究にあたっては、意図的にチベットに関する事柄の中で興味の対象を次々に変えていくことにしました。どんな事柄であっても「面白いな」と思って取り組んだほうが長続きするというのが、私の考え方です。
 学位(博士号)を取得したのはチベット僧院で行なわれている問答の研究でした。仏教は、実はかなり論理学の要素が強い学問です。論理性があるから、教義を勉強できるわけです。チベットでは、7歳位の小僧さんのときに徹底的に論理性をたたき込みます。正しい思考の方法を修得したうえで教義を学ぶと、正しい仏教を理解できるからです。しかも、それを論争学として修得するのがチベット人の方法なので、私も実際にチベット人僧侶たちに混じって問答を実習する中で研究を進めました。問答を繰り返していくと、すべてのことを理論的に考えられるようになり、応用が利くようになります。仏教の論理性は万人に伝わる易しいものではないのですが、問答をしてこういうことを言っているんだと合点がいったときには、衝撃が走りました。

手を動かし、体を動かしながら知らないことを知ることが楽しい

 次に私が目を付けたのは美術です。それも、理論的な絵解きのアプローチではなくて、実際に絵を描くことでした。チベット人の絵師さんに技法を学び、技法の本を翻訳し、チベット絵画史の本を出版しました。問答もそうですが、私は実際に体を使って学ぶことに興味があります。仏教美術というと、本来は意味論ですから原理を研究する学者は多いのですが、私が知りたかったのは、どんなふうにして描くのかということ。たとえば、千手観音像の手がたくさんある理由は広く衆生を救済するためですが、一手一手実際に描いていくとその利他心の深さが実感されていきます。次に音楽に興味が沸き、こちらもチベット歌劇の劇団に入門して、歌と楽器と踊りを勉強しました。最近では年に数回は演奏を披露する機会があり、楽しんでいます。料理にも興味がありチベットで料理人をしていた人物から料理を習いチベット料理のエッセイを書きました。今、一番興味があることは、精進料理。知らないことを知ろうとすることが楽しいから、知らないことをどんどん増やしています。
 私にとってのサプリメントとは、チベットに関することすべてです。その対象であるすべてが本筋の仕事であり、同時に趣味であり、そしてサプリメントでもあるのです。

[経歴]
1952年、神戸市生まれ。
佛教大学文学部仏教学科卒業、佛教大学大学院文学研究科仏教学専攻修了。学術博士(文学)。
佛教大学文学部仏教学科教授、国立民族学博物館共同研究員などを経て現職。

(佛大通信2017年6月号より)

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