通信教育クロストーク

2017年01月30日
学習体験記 仏教学科卒業生(M.Sさん)

仏教学部 仏教学科 浄土・仏教コース 卒業生

45年目の卒業

 私は、工業高校で電機技術を学んだが、技術系が自分の居場所ではないとの思いがあって、学校の斡旋で入社した京都の会社を早々に辞めて、方向転換を図った。京都新聞の配達員をしながら予備校に通った。次の年の入試では、受験した全ての大学をものの見事に落ちて、田舎に帰る羽目となった。たった半年ではなく、もう1年頑張ればよかったのにと今にしては思うが、何かに憑かれたように生き急ぎしていた。福岡での会社勤めに充たされない気持ちでいた中、佛教大学の通信教育課程を見つけた。先の見えない閉塞感の中で、希望を見出した。既に45年も前のことなので、記憶の節々に欠落があるが、私は、22~24歳の頃に通信教育課程の社会福祉学部に在籍していた。

 この度の佛教大学入学に当たって、過去の学籍は抹消されて、学籍記録はないだろうと思っていた。それでも念のためと思って、学生課に問い合わせをしたところ、意外にも当時の単位が、『哲学入門』4単位と『社会学入門』4単位の合計8単位が残されていて、今回のテキスト履修科目として認定された。随分昔ではあるがその頃は、若い時の気の多さというか、意気込んで入学した割には、まじめに勉強しなかった。徐々に学習意欲をなくし、単位取得ができていないことがまた、学友への気後れとなって、益々孤立感を深めて、とうとう脱落してしまった。何の手続きもしないまま放置して、大学との縁が切れた。

 収穫もあった。好んで受講したわけではない必修のスクーリング科目『仏教概論』に強く心をひかれた。担当教授の名前を、45年たった今でも覚えている。「青葉の笛」の故事で知られる熊谷直実の子孫ではないかと思われる、古武士の風格の熊谷教授である。受講した感想は、こんなにもすごいものが身近にあったのかという驚きであった。同時に受講した人たちも同じような感銘を受けていたように思う。熊谷教授の仏教への熱い思いも受講生たちに受け入れられた。いつかは仏教を勉強するようになるかもしれないとの思いが芽生えた。

 福岡に帰って以後、営々と勤め上げた会社を定年で辞めるにあたって、人生後半の計画を考えた。テーマは10ほど、出てきた。例えば、瞑想、フルマラソン、モンゴルに乗馬に行く、富士山に登る、四国遍路をする、屋久島の宮之浦岳に登って縄文杉を見る等。最後の10番目に付け足しのように佛教大学に入学すると書いた。しかし、自分でも第1順位に昇格した思考過程を説明できないが、2012年(平成24年)2月21日には、入学願書を郵送している。その年の7月まで会社に籍があったので、早々の計画遂行であった。

 大学進学の動機欄に記入したのは、身近に迫りつつある「死の恐怖の克服」と「瞑想の探求」の二つのテーマであった。これは仏教学部が最適ではないかと思った。定年退職する身であれば、実学の必要はない。純粋に学問をしよう。それも人間としての根源的な生死への問いである。

 しかし、実際にテキストが送られてきて、スクーリングの全貌が解ってくると、何から手を付けてよいのか戸惑った。しかし、前回の轍は踏むまいとの思いで、先手必勝をもって、まず夏期スクーリングまでに一つでもテキスト履修のリポートを提出することを実行した。取り急ぎ4月6日に「自立学習入門」のリポートを提出した。続いて5月7日に「経済学入門」のリポートを提出して、5月20日の科目最終試験申込みをした。なんとかスタートダッシュには成功したものの、最初の科目最終試験が難関であった。シラバスの中の「学習の要点」に7項目の留意点があり、その各項目について模範解答を作った。1項目が1,000字を7項目で7,000字を記憶しなければならないことになる。これは大変な作業であった。しかし、受験してみると課題が留意点とは微妙に異なっていた。科目最終試験会場に併設された学習室に行くと、過去問題があって、それを有効に活用すると確実に試験問題を予想できることがわかった。山を掛ける方法で試験勉強の省力化を図る人もいたが、模範解答の作成が勉強の一環と思って手を抜かなかった。毎月リポート1本提出と科目最終試験1科目受験を目標に取り組んだ。それはリポート作成に3週間、試験勉強に2週間の配分となる。試験勉強は、1,000字×6課題=6,000字の模範解答を1週間で作り、次の1週間で繰り返し書きながらの暗記作業に入る。猛烈に書き続けたので、腱鞘炎になった。しかし、最初の頃は、試験に臨むと俄暗記のメッキが剥げて、6課題の解答がごっちゃまぜになって、立ち往生してしまった。これは絶対に無理だと何度も思った。しかし、模索しながら少しずつではあるが、希望の光が見えてきた。模範解答の作り方も記憶しやすいように工夫した。序論と本文2~3項目に結論の構成として、各項目には題目をつけて覚えやすくした。序論は、6課題ともに共通として、記憶容量を減らした。最後の頃になると、試験勉強がずいぶん楽になった。

 リポート作成では、多分大丈夫だろうと思って提出したものが、「D 評価」として返ってきた時ほど、暗澹たる気持ちはない。再提出の気力をなくして2~3日、深く落ち込んでしまった。「自分の文章で、自分の意見を述べなさい。」と指導されるが、初めて出会う学問に自分の意見などあろうはずもない。無理な要求とも思えるが、その対処策としては、結論の部分で総評的に意見なり感想を述べたらいいのではないだろうか。

 もし、佛教大学で学んでいなかったら、私のリタイア後の生活はどうなっていただろうと思うとぞっとすることがある。まことに充実した4年間であった。次は、大学院の修士課程で学ぶことが決まっている。目標は、博士号を取得して、本を1冊上梓することである。齢70に垂(なんな)んとして、もはや怖いものはない。

~プロフィール~
2012年4月 仏教学部仏教学科浄土・仏教コース入学
2016年3月 同卒業

(佛大通信2017年2月号より)

TEL : (075)491-0239
受付時間 10:00~17:00(13:00~14:00を除く。木・日・祝日休み)
ページトップ