通信教育クロストーク

2017年02月07日
もう一度

「学部長の手帖から」
教育学部長 篠原 正典(しのはら まさのり)

 京都に住んでいると、他県の人から「多くの観光地が見られていいですね、美味しい料理が食べられていいですね」と言われる。確かに世界遺産と言われる神社仏閣、それに京料理を暖簾に掲げる店も多い。細い路地の奥に目立たずひっそりと構える店は、どことなく隠れ家的な趣を感じさせてくれる。京都には魅力がありそうだ。海外からの旅行者に人気が高いのも頷ける。一方で、京都に住んでいる人は、そういった神社仏閣や料亭と呼ばれるところにはあまり行かないという話も聞く。かく言う私は京都に来て6年過ぎたが、いまだに旅行者気分で神社仏閣の拝観や食事にたまに出かける。拝観料や車の駐車料金、京料理の料金も、近年はその値段にマヒしてきたが、九州育ちで関東暮らしが長い庶民の私は、それでも高いと感じる。それらが季節によって大きく変動することにはまだ慣れていない。無料が有料に変わるところもある。京都は京都に住んでいる人のためというより、外から訪れる人のための町かもしれない。

 いずれにしても、旅行者に魅力的な要素が隠れている京都ではあるが、私にとってもう一度訪れたい、この店で食べたいというところはそれほど多くない。数えられるほどしかない。「美味しい高級料亭に行ったことがないからだ」と言われると反論できないが、旅の雑誌等に書かれている旅行者に結構知られている店で食べても、また食べたいと思えるところに巡り合えない。このハズレは、同じ旅行者が何度も来てくれることは少なそうだから、一度来てくれればいいんだということなのか、私の日頃の行いによる運の悪さなのかはわからない。

 「一度行ってみたい」ところはたくさんあるが、「もう一度行きたい」ところはそれほど多くない。ディズニーランドやユニバーサルスタジオなどはリピーター客が多い。だから繁栄している。「もう一度」行ってみたいと感じさせる魅力がある。どれだけ「一度行ってみたい」と感じさせても、一度行けば十分、一度食べたら十分だと思われてしまうとおしまいである。もう一度行ってみたい、もう一度食べてみたい、もう一度あの人の話を聞きたい、もう一度会いたい……そう感じさせなければ続かない。

 学習もそうである。面白そうだと感じて一度学習する動機づけはできても、実際に学習して思うほどの興味が持てなければ、もっと学習したいという意欲はなくなる。広告で引き付け、試食や無料体験などで「お試し」は容易にできるが、「もう一度」と魅力を感じさせることは容易ではない。

(佛大通信2017年1月号より)

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